禁煙アプリを探すと、無料アプリの比較記事がたくさん出てきます。禁煙日数や節約額を表示してくれるものです。
ただ、保険適用の医療用アプリ「CureApp SC」については、何がどう違うのかまで書かれていることは多くありません。Weblioケア編集部は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査報告書に当たり、承認の根拠になった臨床試験の実数を確認しました。
結論から書きます。このアプリは「禁煙を頑張るためのもの」ではなく、12週間の保険治療が終わったあとに残る空白期間を埋めるために設計されたものです。使用期間は標準禁煙治療プログラムの12週間と、その後の12週間を合わせた計24週間。治療が終わってからも介入が続きます。
継続禁煙率は63.9%、対照群は50.5%
承認の根拠になったのは、国内31施設で584例を対象に実施された無作為化非盲検並行群間比較試験です。主要評価項目は第9〜24週の継続禁煙率でした。
| 評価時点 | 本品群 | 対照群 | オッズ比(95%信頼区間) | p値 |
|---|---|---|---|---|
| 第9〜12週の継続禁煙率 | 75.4%(215/285例) | 66.2%(190/287例) | 1.57(1.089〜2.267) | 0.016 |
| 第9〜24週の継続禁煙率 | 63.9%(182/285例) | 50.5%(145/287例) | 1.73(1.239〜2.424) | 0.001 |
| 第9〜52週の継続禁煙率 | 52.3%(149/285例) | 41.5%(119/287例) | 1.55(1.111〜2.155) | 0.010 |
対照群は、有効性に寄与する可能性のある機能を除いたアプリを使った群です。アプリを使わない群ではなく、機能を抜いたアプリを使った群と比較しています。「アプリを持っている」という効果を差し引いた上での差だということです。
差が開くのは治療が終わったあと
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。各時点の禁煙率を並べると、差の広がり方に特徴があります。
| 時点 | 本品群 | 対照群 | 差 |
|---|---|---|---|
| 4週 | 71.6% | 60.3% | 11.3pt |
| 8週 | 78.6% | 69.3% | 9.3pt |
| 12週 | 79.3% | 71.1% | 8.2pt |
| 24週 | 72.3% | 58.2% | 14.1pt |
| 52週 | 63.5% | 49.1% | 14.4pt |
12週時点では8.2ポイントだった差が、24週で14.1ポイント、52週で14.4ポイントに広がります。オッズ比も52週時点で1.80(95%信頼区間1.290〜2.519、p<0.001)と、12週時点の1.56より大きくなっています。
保険の禁煙治療は12週で終わりますが、このアプリは24週まで介入を続けます。開発の動機自体が、禁煙開始13週から24週にかけて禁煙率が低下するという問題を埋めることでした。差が開くのは設計どおりです。
なぜ薬とは別に必要なのか
審査報告書には、ニコチン依存症には身体的依存と心理的依存の2種類があると整理されています。
| 依存の種類 | 内容 | 治療の手段 |
|---|---|---|
| 身体的依存 | ニコチンを摂取しないと不安症状や焦燥感などの不快な症状が出る | 禁煙治療薬 |
| 心理的依存 | 起床後・食後・手持ち無沙汰なときなど、場面と結びついた条件反射で吸ってしまう | 行動療法などの心理療法 |
薬が効くのは身体的依存の側です。心理的依存には別の手段が要るという前提でこのアプリは作られています。「アプリは離脱症状を軽くしない」という説明をよく見かけますが、正確には、そもそも介入している対象が違います。
そして、診療時以外は医師が介入しないという構造上の問題があります。2週後・4週後・8週後・12週後という間隔があき、その間の日常生活のストレスや誘惑には患者と家族だけで対処することになる。この空白を埋めることがアプリの役割です。
何ができるアプリなのか
CureApp SCは、患者用アプリ・医師用アプリ・呼気一酸化炭素濃度測定器(COチェッカー)の3つで構成されます。
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| 治療プログラム機能 | ニコチン依存症の疾患理解や行動療法(代償行動法、環境改善法、行動パターン変更法、オペラント強化法、自己主張訓練等)の習得のため、メッセージや動画を配信 |
| 実践管理機能 | 日々実践する行動リストを表示し、実践した行動を記録 |
| 禁煙日記機能 | 体調・禁煙状況・服薬状況・実践した行動を表示 |
| チャット機能 | 入力情報に基づき、プログラムや日記の実施を促すメッセージを配信 |
興味深いことに、禁煙成功者と失敗者で使用率に差が見られたのは、この4機能すべてでした。使った人ほど成功しているという関係です。
一方、COチェッカーについては、審査の過程で「呼気CO濃度測定単独では禁煙成功に寄与していない」という申請者の説明が提出されています。測定回数が増えても成功率が上がる傾向は認められませんでした。ただしPMDA側は、測定結果を医師が確認できる仕組みが継続禁煙に寄与している可能性は否定できないとしています。
使えない人がいる
審査の結果、対象患者に条件がつきました。ここは他の記事ではほとんど触れられていない部分です。
バレニクリンとの併用が前提
治験では、併用した禁煙治療薬ごとに結果を分けて解析しています。バレニクリン併用群では本品群67.0%(152/227例)に対し対照群50.7%(115/227例)と明確な差が出ました。しかしニコチンパッチ併用群では、本品群と対照群の継続禁煙率に差が見られませんでした。
この結果を受けて、申請者はニコチンパッチ併用患者に関するアプリの該当機能を削除し、本品は禁煙治療薬としてバレニクリンを併用することを意図したアルゴリズムであると規定したうえで、添付文書で情報提供することになりました。
つまり、貼り薬で治療する場合はこのアプリの対象から外れます。薬の選択そのものについてはチャンピックスとニコチネルTTSの違いで扱っています。
加熱式たばこのみの使用者は対象外
加熱式たばこは葉が燃焼する温度に達しないため、呼気一酸化炭素が発生しません。COチェッカーで測っても意味をなさず、医師が測定結果を確認することによる効果が失われます。
治験にも加熱式たばこのみの使用者は含まれていませんでした。PMDAは、呼気CO濃度が変化しない加熱式たばこのみを使用する患者を対象に含めることは妥当ではないと判断し、使用前に喫煙状況を確認する旨が規定されました。
実臨床の数字と比べる
治験の対照群(50.5%)が実際の医療現場と比べて高すぎないか、審査の過程で確認が行われています。中央社会保険医療協議会の実態調査による継続禁煙率は次のとおりです。
| 9〜12週 | 9〜52週 | |
|---|---|---|
| 本治験の対照群 | 66.2% | 41.5% |
| 平成19年度 中医協実態調査 | 54.1% | 32.6% |
| 平成21年度 中医協実態調査 | 56.1% | 29.7% |
| 平成29年度 中医協実態調査 | 58.3% | 27.3% |
実臨床では1年後に3割を切っています。治験の対照群はこれを上回っているため、比較対象として妥当だと判断されました。逆に言えば、治験に参加する患者は実臨床より成績が良く出やすいということでもあります。数字の読み方は禁煙外来の成功率を一次資料で確かめたで整理しています。
無料アプリはどう位置づけるか
禁煙日数や節約額を表示する無料アプリは、CureApp SCとは別のものです。医療機器としての承認はなく、臨床試験で有効性を検証されてもいません。
参考になる海外の事例があります。携帯電話のショートメッセージで診療間の行動を促す「Text2Quit」は非医療機器ですが、503人を対象にしたランダム比較試験で、症例登録6か月後の禁煙継続率が介入群11.1%、対照群5.0%と報告されています。数字の水準がまったく違うことがわかります。
無料アプリを使うこと自体に問題はありません。ただし、それが治療の代わりになるものではないという前提で使ってください。
安全性について
治験では、本品または対照機器と関連を否定できない有害事象は認められませんでした。不具合としては表示不良28件、データ入力不良5件、計算不良5件、データ送信不良5件などが報告されていますが、被験者の健康状態に影響を及ぼすと判断された不具合はありませんでした。
使用にはスマートフォンが必要です。治験の選択基準ではAndroid 5.0以上またはiPhone 8.0以上とされていました。
禁煙アプリに関するよくある質問
CureApp SCは自分でダウンロードできますか
できません。医師の処方によって提供される医療機器です。
保険は使えますか
保険適用の対象です。ただし処方の可否は医療機関によります。
いつまで使いますか
使用期間は、標準禁煙治療プログラムの12週間と、その終了後12週間を合わせた計24週間です。
貼り薬でも使えますか
バレニクリンとの併用を意図したアルゴリズムに限定されています。ニコチンパッチ併用時の有効性は確認されていません。
加熱式たばこでも使えますか
呼気CO濃度が上昇しない加熱式たばこのみを使用している場合は対象外です。使用前に喫煙状況の確認が行われます。
無料アプリだけで禁煙できますか
無料アプリには医療機器としての承認も、有効性を検証した臨床試験もありません。記録やモチベーション維持の補助と考えてください。
この記事で参照した一次資料
- CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー 審査報告書(独立行政法人医薬品医療機器総合機構、令和2年5月28日)および審議結果報告書(厚生労働省 医薬・生活衛生局 医療機器審査管理課、令和2年6月19日)
- 中央社会保険医療協議会「ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書」(平成19・21・29年度)
- 医科診療報酬点数表 B001-3-2 ニコチン依存症管理料
- 日本循環器学会ほか「禁煙治療のための標準手順書 第7版」(審査報告書が参照している版)
- Abroms LC, et al. Am J Prev Med. 2014;47(3):242-250(Text2Quitのランダム比較試験)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「禁煙治療」
この記事は2026年9月2日時点で公表されている資料に基づいています。処方の可否や費用は医療機関にご確認ください。

