母子健康手帳の喫煙の質問はなぜ夫の分まで聞くのか|妊婦健診で答える意味と正直に書いてよい理由【2026年最新】

母子健康手帳を受け取って最初の数ページを記入するとき、たばこについての質問が2つ並んでいることに気づいた方は多いと思います。1つは自分が吸うかどうか。もう1つは同居者が同じ部屋で吸うかどうかです。

なぜ妊婦本人だけでなく、一緒に住んでいる人の喫煙まで聞かれるのか。正直に「はい」と答えたら何か言われるのではないか。書かずに空欄にしておいてもいいのか。編集部にはこうした疑問が寄せられます。

この記事では、母子健康手帳の様式そのものと母子保健法の規定を確認したうえで、これらの質問が何のために置かれているのか、答えた内容がどう扱われるのかを整理します。喫煙が健康に及ぼす影響については、当編集部は評価を加えず、母子健康手帳と厚生労働省の記載をそのまま示します。

目次

母子健康手帳の喫煙の質問は全国共通で決まっている

まず押さえておきたいのは、この質問が市区町村ごとに違うものではないという点です。

省令様式は全国共通で、市区町村が変更できない

母子健康手帳は、母子保健法第16条に基づき、妊娠の届出を行った妊婦に市町村が交付します。手帳の様式は母子保健法施行規則の様式第三号(第七条関係)として国が定めており、この部分は「省令様式」と呼ばれます。

省令様式は全国共通で、各市町村が独自に内容を変えることはできません。母子保健法施行規則第7条では、省令様式のほかに、日常生活上の注意や乳幼児の養育に必要な情報などを示した面を別に設けることとされており、こちらは「任意様式」と呼ばれます。市区町村の独自色が出るのは任意様式のほうです。

つまり、たばこについての質問は国が全国一律で置いている設問であり、住んでいる自治体や交付を受けた窓口の判断で入っているものではありません。

設問は「自分」と「同居者」の2つに分かれている

省令様式の3ページ目、「妊婦の健康状態等」の欄には、妊婦自身が記入する項目として次の2つが並んでいます。

設問 選択肢
たばこを吸いますか。 いいえ/はい(1日 本)
同居者は同室でたばこを吸いますか。 いいえ/はい(1日 本)
酒類を飲みますか。 いいえ/はい(1日 程度)

この3つの直後には、喫煙と飲酒は赤ちゃんの成長に大きな影響を及ぼすのでやめましょう、という注記が置かれています。

注目すべきは2つ目の設問です。「同居者」であって「配偶者」や「夫」ではなく、「同室で」という限定がついています。同じ家に喫煙者がいるかどうかではなく、妊婦と同じ空間で吸っているかどうかを聞いている設問です。しかも本数まで記入する欄があります。

職業と環境の欄にもたばこの記入例がある

設問はこれだけではありません。省令様式の4ページ目「妊婦の職業と環境」には、仕事の内容と職場環境を記入する欄があり、その注記に記入すべき特記事項の例が挙げられています。

そこには、立ち作業など負担の大きい作業が多い、温湿度が厳しい、たばこの煙がひどい、振動が多い、ストレスが多い、休憩がとりにくい、時間外労働が多い、といった項目が並びます。

家庭内だけでなく、職場での受動喫煙も記録する対象に含まれているということです。同じページには住居の種類や同居者の構成を書く欄もあり、妊婦がどんな環境で過ごしているかを一通り把握する設計になっています。

なぜ同居者の喫煙まで聞かれるのか

ここには国の政策上の理由があります。

健やか親子21の指標そのものになっている

「健やか親子21」は、すべてのこどもが健やかに育つ社会の実現を目指す国民運動で、現在はこども家庭庁が所管しています。この運動には数値で追う指標が設定されており、そのなかに次の2つがあります。

指標番号 指標
基盤課題A-5 妊娠中の妊婦の喫煙率
基盤課題A-6 育児期間中の両親の喫煙率

A-6が「母親の喫煙率」ではなく「両親の喫煙率」である点が重要です。国は当初から、妊婦本人の喫煙と、同居する家族の喫煙を、別々の指標として追いかける設計にしています。

母子健康手帳の2つ目の設問は、この指標を実際に測るための入り口にあたります。ここで集まった回答が、市町村の母子保健事業の基礎資料になり、全国の集計値として指標の達成度に反映されていきます。

乳幼児健診の問診でも聞かれる

喫煙についての質問は、妊娠中で終わりません。出生後の乳幼児健診でも、健やか親子21の指標に対応した問診項目として継続的に聞かれます。妊娠中の妊婦の喫煙率、育児期間中の両親の喫煙率は、いずれも問診項目として設定されているものです。

つまり、たばこについての質問は妊娠から乳幼児期まで切れ目なく続く設計になっており、単発のアンケートではありません。この点を知っておくと、健診のたびに聞かれることの意味がわかりやすくなります。

正直に答えると不利益があるのか

編集部に寄せられる不安のなかで最も多いのがこれです。制度の建て付けから整理します。

記録の目的は支援であり、処分ではない

母子健康手帳は、母子保健法に基づいて交付される、妊産婦や乳幼児の保健指導の基礎資料です。手帳そのものにも、妊産婦や乳幼児の保健指導の基礎資料となると同時に、保護者に対する育児書の役割も果たすと位置づけられています。

喫煙の回答によって、何らかの処分や制限が発生する仕組みは、母子保健法にも母子健康手帳の様式にも存在しません。手帳の各所に置かれているのは、相談を促す文言です。妊娠についての悩みや、出産・育児の不安がある場合は、保健所、市町村(保健センター)、医療機関等に気軽に相談しましょう、という案内が繰り返し出てきます。

検査結果の記録には説明と同意が求められている

手帳の運用にはプライバシーへの配慮も組み込まれています。省令様式の検査の記録の欄には、検査結果を記録する場合は、妊婦に説明し同意を得ることという注記が明示されています。乳幼児期の検査記録の欄にも、保護者に説明し同意を得ることと書かれています。

本人の同意なく情報を書き込む運用にはなっていないということです。

空欄にすると支援につながらない

制度上、記入は本人が行うものであり、書かないことへの罰則はありません。ただし空欄のままだと、支援が必要な状態であることが伝わらず、保健師や助産師から情報提供を受ける機会も生まれません。

とくに2つ目の設問は、妊婦自身ではどうにもしにくい問題を第三者に伝えられる数少ない窓口です。同居者の喫煙を自分から切り出しにくい場合でも、この欄に記入しておけば、保健指導の場で話題として扱ってもらえます。

母子健康手帳が喫煙について書いていること

ここは当編集部の見解ではなく、母子健康手帳の省令様式に実際に記載されている内容です。

妊娠中のリスク要因の一覧に喫煙が入っている

手帳の「すこやかな妊娠と出産のために」の項では、妊娠中や出産時に異常を起こすリスクが高いとされる項目として、若年(20歳未満)、高年(40歳以上)、低身長(150cm未満)、肥満(BMI25以上)、飲酒、喫煙、多胎、不妊治療での妊娠、糖尿病・腎臓病などの病気がある、過去の妊娠・分娩で問題があった、が並べられています。

年齢や体格と同じ列に置かれている一方で、これらのなかで本人と家族の行動によって変えられるのは飲酒と喫煙だけです。

「お父さんなど周囲の人も」と名指しで書かれている

手帳の「たばこ・お酒の害から赤ちゃんを守りましょう」の項には、次の趣旨の記載があります。妊娠中の喫煙は切迫早産、前期破水、常位胎盤早期剥離を起こりやすくし、胎児の発育に悪影響を与える。妊婦や赤ちゃんのそばでの喫煙は乳幼児突然死症候群(SIDS)と関係することが知られている。そして、妊婦自身の禁煙はもちろんのこと、お父さんなど周囲の人も、妊婦や赤ちゃんのそばで喫煙してはいけないとされています。

さらに、出産後に喫煙を再開してしまう母親もいるとして、出産後も母親自身や子どものためにたばこを控えるよう促しています。

SIDS予防の3項目のうち1つが喫煙

手帳の乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防の項では、日頃から心がけることとして3つが挙げられています。1つ目があお向け寝、2つ目が妊娠中や赤ちゃんの周囲ではたばこを吸わないこと、3つ目ができるだけ母乳で育てることです。

3つのうち1つが喫煙に関するものであり、しかもここでも「赤ちゃんの周囲では」と、吸う人が誰であるかを限定していません。

母子健康手帳はたばこを誤飲事故の原因としても扱っている

受動喫煙とは別に、たばこには家庭内の事故という側面があります。母子健康手帳はこちらも扱っており、知られていない情報が含まれています。

生後7か月からの事故リスクに名指しで登場する

省令様式の「事故の予防」の項には、月齢・年齢別に起こりやすい事故と主な原因をまとめた表があります。ここで、生後7〜12か月の「誤飲・中毒」の原因として最初に挙げられているのがたばこです。医薬品、化粧品、洗剤、コインなどより先に書かれています。

月・年齢 起こりやすい事故 主な原因
7〜12か月 誤飲・中毒 たばこ、医薬品、化粧品、洗剤、コインなど
1〜4歳 誤飲(中毒) 範囲が広がり、あらゆるものが原因になる

さらに、9〜10か月頃の保護者の記録のページには「指で、小さい物をつまみますか。」という設問があり、その注記としてたばこや豆などの異物誤飲に注意しましょうと書かれています。指先でものをつまめるようになる時期と、たばこの誤飲リスクが立ち上がる時期が重ねられているわけです。

家庭内に喫煙者がいるかどうかは、煙の問題であると同時に、灰皿や吸い殻が手の届く場所に存在するかどうかの問題でもあります。この観点は妊娠中には見えにくく、子どもがハイハイを始めてから急に現実になります。

中毒110番にはたばこ専用の回線がある

母子健康手帳には、化学物質や医薬品などによる急性の中毒について情報提供・相談を行う窓口として、公益財団法人日本中毒情報センターの連絡先が掲載されています。

窓口 電話番号 受付
大阪中毒110番 072-727-2499 24時間365日
つくば中毒110番 029-852-9999 9時〜21時・365日
たばこ専用回線 072-726-9922 無料(テープによる情報提供)・24時間365日

たばこだけに専用の回線が設けられているという事実は、家庭でのたばこ誤飲がそれだけ頻繁に起きていることを示しています。手帳には、異物誤飲(小石、ビー玉など)、食中毒、慢性の中毒、常用量での医薬品の副作用は受け付けていないと注記されているため、この回線は急性中毒に対応するものです。

なお、口の中に指を入れて取り出そうとすると異物がさらに奥へ進んでしまうことがある、とも記載されています。

質問に「はい」と答えたあとにできること

設問の意味がわかっても、同居者の喫煙という答えが変わらなければ状況は動きません。ここからは実務の話です。

家庭内の喫煙は法律では解決できない

先に前提を1つ。改正健康増進法は家庭を「人の居住の用に供する場所」として規制の適用除外としており、家庭内の喫煙には罰則のある規制が存在しません。東京都子どもを受動喫煙から守る条例は家庭内にも努力義務を課していますが、対象は18歳未満の児童で、胎児は含まれません。

この構造については妊娠中の受動喫煙を防ぐのは夫の禁煙|法律が家庭に届かない理由で詳しく整理しています。結論として、動かせるのは同居者本人の判断だけです。

妊婦健診のスケジュールと禁煙治療の12週間は両立する

母子健康手帳には、妊婦健康診査について、少なくとも毎月1回、妊娠24週(7か月)以降には2回以上、さらに妊娠36週(10か月)以降は毎週1回受けるよう案内されています。

一方、保険適用の禁煙治療は12週間で5回の受診です。妊娠が判明するのは一般に妊娠5〜8週ごろなので、そこから始めれば妊娠中期には治療期間が終わります。

時期 妻の妊婦健診 同居者の禁煙治療
妊娠8週 月1回 初回受診
妊娠12週 月1回 3回目
妊娠20週 月1回 5回目・完了
妊娠24週以降 2週に1回
妊娠36週以降 毎週1回

健診の間隔が短くなる妊娠後期に入る前に、禁煙治療を終えておける計算になります。

育児休業などの制度も手帳に載っている

母子健康手帳には「働く女性・男性のための出産、育児に関する制度」の項があり、育児休業は正社員だけでなくパートや派遣で働く人も一定の要件を満たせば取得できること、父母ともに育児休業を取得する場合は子が1歳2か月に達するまでの間に父母それぞれ1年間まで取得できるパパ・ママ育休プラスがあることなどが記載されています。

同居者が平日の通院時間を確保しにくい場合、こうした制度と組み合わせて考える余地があります。受診の方法については禁煙外来のオンライン診療おすすめ比較で扱っています。

電子版の母子健康手帳でも設問は変わらない

こども家庭庁は電子版母子健康手帳ガイドラインを策定し、紙の母子健康手帳に掲載されていた出産や育児などの情報を中心に、妊娠・出産・子育てに関するコンテンツをウェブで提供しています。任意様式にあたる部分を電子的に提供する形です。

ただし、省令様式は法令で定められた全国共通の様式なので、電子化されても設問そのものが変わるわけではありません。自治体のアプリや電子版を使っている場合でも、たばこについての2つの質問は同じ位置づけで存在します。

出生後も同じ問いが続く

母子健康手帳の設問は妊娠期から乳幼児期までを対象にしていますが、子どもが成長したあとも、たばこと子どもをめぐる制度は形を変えて続きます。学童期・思春期については20歳未満の喫煙と受動喫煙を守る法律は3層あるで、喫煙を禁じる法律・喫煙エリアへの立入禁止・自治体の条例という3つの層を整理しています。成年年齢が18歳になっても喫煙は20歳未満のまま禁止されている点、条例が守る「子ども」は18歳未満で切れる点など、年齢の境界がずれている構造を扱いました。

母子健康手帳の喫煙の質問に関するよくある質問

Q. 母子健康手帳のたばこの質問は自治体によって違いますか

違いません。この設問は母子保健法施行規則の様式第三号として国が定めた省令様式に含まれており、全国共通です。市区町村が独自に内容を変えられるのは任意様式の部分です。

Q. 同居者の喫煙について「はい」と答えたら、夫に連絡が行きますか

そうした仕組みは制度上ありません。母子健康手帳は妊産婦や乳幼児の保健指導の基礎資料であり、手帳の記録をもとに同居者へ通知する規定は母子保健法にも様式にも存在しません。保健指導の場で情報提供を受けたり、相談したりする材料になります。

Q. 書かずに空欄のままにしてもよいですか

記入は本人が行うもので、書かないことへの罰則はありません。ただし空欄だと状況が伝わらないため、保健師や助産師から情報や支援を受ける機会が生まれにくくなります。

Q. 「同室で」とありますが、ベランダで吸っている場合はどう答えればよいですか

設問は「同室で」と限定しているため、文字どおりに読めば同じ部屋で吸っていない場合は該当しません。ただし厚生労働省は、換気や空気清浄機の使用で受動喫煙を予防するのは大変難しいとしており、煙が除去される速度を倍にしても濃度は半分にしかならないこと、かえって建物の他の部分に煙を広げてしまう可能性があることを示しています。設問への回答とは別に、職業と環境の欄や自由記入欄に状況を書き添えておくと、相談の材料になります。

Q. 職場の受動喫煙についてはどこに書けばよいですか

省令様式の「妊婦の職業と環境」の欄に、仕事の内容と職場環境を記入する箇所があり、その注記に「たばこの煙がひどい」が特記事項の例として挙げられています。また、医師等から指導を受けた場合には、母性健康管理指導事項連絡カードを使って勤務先に伝える仕組みもあります。

Q. 出産後もこの質問は続きますか

続きます。健やか親子21の指標である育児期間中の両親の喫煙率は乳幼児健診の問診項目に対応しており、妊娠中から乳幼児期まで継続して確認される設計になっています。

母子健康手帳と喫煙に関する参照情報

本記事は母子健康手帳の様式と関係法令、および公表資料を編集部が確認して作成しました。喫煙および受動喫煙が健康に及ぼす影響、ならびに個別の対応については、上記の公的機関の資料および医師・保健師の判断をご確認ください。

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