多汗症とは|原因・種類・受診の目安を診療ガイドラインから解説【2026年最新】

汗の量が人より多い。それだけでは多汗症とは呼びません。ガイドラインの定義には「日常生活に支障をきたす」という条件が含まれています。量そのものではなく、生活が妨げられているかどうかが基準です。

そして多汗症は、まず原因のはっきりしない「原発性」と、別の病気や薬が原因の「続発性」に分かれ、原発性はさらに手掌・足底・腋窩・頭部顔面の四つの部位に分かれます。この分岐によって、選べる治療も保険の適用も変わります。

この記事では、日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」(PDF)をもとに、多汗症の全体像を整理します。自分がどこに当てはまるのかを確かめるための地図として使ってください。

目次

多汗症の定義

ガイドラインは、原発性局所多汗症を次のように定義しています。

頭部・顔面、手掌、足底、腋窩に温熱や精神的な負荷、またそれらによらずに大量の発汗がおこり、日常生活に支障をきたした状態

エクリン汗腺は発汗により主に体温調節機能を担っていますが、そのほかにも皮膚表面の適度な湿度を供給する機能や、自然免疫などにより外界の細菌・ウイルスから体を守る作用が注目されています。汗そのものは皮膚が正常な役割を果たすために重要な働きをしており、多いこと自体が異常なのではありません。

問題になるのは、その量が日常生活を妨げている場合です。この考え方は治療方針にも一貫していて、ガイドラインは局所多汗症の治療は患者本人が困らなければ行う必要はなく、患者自らの希望により治療は開始されるべきだとしています。

まず分けるべき2つ|原発性と続発性

多汗症は、まず全身の発汗が増加する全身性多汗症と、体の一部のみの発汗量が増加する局所性多汗症に分類されます。そのそれぞれに、原因のはっきりしない原発性(特発性)と、他の疾患に合併して起きる続発性があります。

原発性(特発性) 続発性
全身性 原発性全身性多汗症 感染症、内分泌代謝異常、神経疾患、薬剤性など
局所性 原発性局所多汗症
(手掌・足底・腋窩・頭部顔面)
Frey症候群、味覚性発汗、エクリン母斑など

この記事で主に扱うのは、左下の原発性局所多汗症です。ガイドラインもここを対象にしています。

続発性を疑うべき場合

続発性の場合は、まず原因となっている病気の治療や、原因となった薬剤の変更が必要になります。ガイドラインが挙げている続発性多汗症の原因は次のとおりです。

種類 原因
全身性 薬剤性、薬物乱用、循環器疾患、呼吸不全、感染症、悪性腫瘍、内分泌・代謝疾患(甲状腺機能亢進症、低血糖、褐色細胞腫、末端肥大症、カルチノイド腫瘍)、神経学的疾患(パーキンソン病)
局所性 脳梗塞、末梢神経障害、中枢または末梢神経障害による無汗からおこる他部位での代償性発汗(脳梗塞、脊椎損傷、神経障害、Ross症候群)、Frey症候群、味覚性発汗、エクリン母斑、不安障害、片側性局所性多汗(神経障害、腫瘍など)

神経疾患では、大脳皮質の障害により発汗機能の亢進や低下が認められます。脳梗塞で麻痺側の発汗量が増加すること、体温中枢のある視床下部を含む間脳の障害、脊髄損傷による自律神経障害などによって多汗が起きることがあります。

Frey症候群は続発性局所性多汗症の代表例です。耳下腺の手術や外傷の後で、食事の際に耳の前が赤くなり多汗がみられる症候群で、損傷を受けた副交感神経が発汗神経に迷入することにより発症すると考えられています。手術歴がある場合は必ず医師に伝えてください。

原発性の枠に収まらないサインとしては、左右非対称であること、25歳を大きく過ぎてから急に始まったこと、睡眠中も汗が出続けることが挙げられます。あわせて体重減少や動悸などの症状がある場合も、続発性の可能性を考える必要があります。

部位によって、汗の仕組みが違う

原発性局所多汗症は四つの部位に分かれますが、単に場所が違うだけではありません。汗が出る仕組みそのものが部位によって異なります。これが治療の選択肢が部位ごとに変わる背景にあります。

手掌・足底|「滑り止め」から始まった汗

手のひらと足の裏の発汗は、発生学的にはマウスやイヌ、ネコの足裏の肉球における発汗と同一のものです。動物の足裏の汗は、敵から逃げるときや高いところに飛び移るときの「滑り止め」の役割を持っています。

ヒトでは暗算、恐怖、痛み、不安といった精神的な負荷や、深呼吸、触刺激で誘発されるため、精神性発汗と呼ばれます。手掌・足底は温熱刺激では発汗せず、睡眠で発汗が消失することから、体温調節をつかさどる視床下部の発汗中枢とは別の中枢に支配されていると考えられています。精神性発汗の中枢としては、扁桃体、前部帯状回、大脳基底核、縫線核の関与が指摘されています。

この性質は診断に直結します。眠っている間も手足が濡れているなら、原発性ではなく別の原因を疑う手がかりになります。

頭部・顔面|「脳冷却」のための汗

頭部・顔面の発汗の生理的意義は、高温に弱い脳を守るための「脳冷却」です。ほかの全身に比べて発汗の閾値が低いため、全身には発汗が生じないような低い体温でも頭部の発汗が始まることがあります。

緊張したときに顔から汗が出るのは、体温が低い状況で発汗が生じるため一般に「冷や汗」と呼ばれます。生理学的には、精神活動の亢進した脳を冷却するための発汗であり、精神性刺激で誘発された体温調節性発汗(脳冷却発汗)といえます。

頭部・顔面はまた、辛い食べ物で汗が出る味覚性発汗が生じる部位でもあります。この発汗はトウガラシに含まれる辛み成分カプサイシンが温度感受性受容体TRPV1を刺激して生じるもので、これも脳冷却のための温熱性発汗と考えられています。

腋窩|量ではなく「条件」の問題

腋窩は、手掌・足底以外の全身と同様に温熱負荷に対して発汗が生じる温熱性発汗が主体の部位です。精神的な負荷でも発汗しますが、これは腋窩以外の全身体表面でも生じる現象で、手掌の精神性発汗とは別の機序です。

意外なことに、ガイドラインは腋窩の発汗量そのものは多くないとしています。それでも問題になるのは、腋窩が全身に比べて発汗開始の体温閾値がもっとも低く、腕でふさがれた部位のため汗が蒸発しにくいからです。少量の発汗でも発汗過多と認識されやすい、というのがガイドラインの説明です。

患者数と、受診率のギャップ

多汗症は珍しい病気ではありません。ところが医療機関にかかっている人は極端に少ないという特徴があります。

部位 2013年調査
(5,807人)
2020年調査
(60,969人)
発症の平均年齢
腋窩 5.75% 5.9% 19.5歳
手掌 5.33% 2.9% 13.8歳
頭部・顔面 4.7% 3.6% 21.2歳
足底 2.79% 2.3% 15.9歳
全体 12.8% 10.0%

2013年の調査では、回答者全体の46.8%がHDSS3または4という重症を訴えていました。ところが医療機関への受診率は6.2%。2020年の調査では受診経験率4.6%で、受診を継続している人の割合は0.7%にとどまります。

ガイドラインは受診率の低さの理由を3つに整理しています。

理由
患者自身が多汗を気にしているにもかかわらず、市販薬など自身で対応をしている
多汗症に対応した受診先医療機関が少ない
満足のいく治療選択肢がない

同じ調査で医師側にも聞いており、治療選択肢が少なく積極的な治療ができないと答えた医師が58.2%存在しました。患者が受診しないだけでなく、受け入れる側にも課題があったということです。

ただしこの状況は変わりつつあります。2020年以降、腋窩と手掌に対して保険適用の外用抗コリン薬が相次いで承認されました。上の数字は、それ以前の実態を映したものと読むのが妥当です。

生活への影響は数字にも表れている

2012年から2019年に原発性腋窩多汗症と診断された1,447人を対象とした調査では、全般労働障害率が30.52%でした。汗のせいで欠勤するわけではないものの、本来の力を発揮できていない状態です。日本における腋窩多汗症の生産性損失は1か月あたり3,129億円と推定されています。

2021年のインターネット調査(HDSS3以上の重症者が対象)では、症状により学業や仕事への影響があったと回答したのは17.1%。その内訳でもっとも多かったのが「希望の職種・職業を諦めた経験がある」で6.6%でした。

精神面への影響も報告されています。腋窩多汗症がある患者の不安障害の有病率は23.1%、うつ病は27.2%で、多汗症がない患者(それぞれ7.5%、9.7%)よりも有意に高いという研究があります。

ただし、治療で汗が減れば精神症状も必ず改善するわけではありません。国内の研究では、発汗量が減って治療が有効だった44人のうち、治療後に抑うつ度が増悪した患者が27.2%認められています。ガイドラインは、多汗症状が改善したにもかかわらず不安やうつ傾向が改善しない場合には、多汗症以外の疾患についての考慮も必要だと述べています。

多汗症の診断基準

ガイドラインは、局所多汗症の診断基準としてHornbergerらの基準を採用しています。局所的に過剰な発汗が明らかな原因のないまま6か月以上認められ、かつ次の6項目のうち2項目以上に当てはまる場合を多汗症と診断します。

項目 意味
最初に症状が出るのが25歳以下であること 原発性は若年で発症する
対称性に発汗がみられること 片側だけなら神経障害などを疑う
睡眠中は発汗が止まっていること 精神性発汗は睡眠で消失する
1週間に1回以上多汗のエピソードがあること 頻度の基準
家族歴がみられること 遺伝的関与が示唆されている
それらによって日常生活に支障をきたすこと 定義の中核

ここで確認しているのは「原発性かどうか」であって重症度ではありません。原発性と判断されたうえで、次に重症度を測るという二段構えになっています。重症度の判定にはHDSSと発汗量測定が用いられます。

治療は部位ごとに変わる

診断基準を満たしたら、次は治療です。ここで冒頭の分岐が効いてきます。ガイドラインは腋窩・手掌・足底・頭部顔面それぞれについて別々の診療アルゴリズムを示しており、推奨度も保険適用も部位ごとに違います。

治療法 腋窩 手掌 足底 頭部・顔面
塩化アルミニウム外用 B B C1 C1
外用抗コリン薬 B B C1 C2
水道水イオントフォレーシス C1 B B C2
ボツリヌス毒素の局所注射 B(保険適用) C1 C1 C1
内服抗コリン薬 C1 C1 C1 C1
交感神経遮断術(ETS) 条件付きC1 条件付きB 条件付きC1

推奨度のBは「行うよう勧められる」、C1は「行うことを考慮してもよいが十分な根拠がない」、C2は「根拠がないので勧められない」です。

この表を縦に読むと、部位ごとの事情が見えてきます。

部位 特徴 詳しくは
手掌 Bが3つ並び、選択肢がもっとも多い部位。2023年に手掌専用の保険適用外用薬が登場 手掌多汗症(手汗)
腋窩 第一選択の外用薬にも第二選択の注射にも保険が効く。重症例まで保険で完結する道筋がある 腋窩多汗症(脇汗)とわきがの違い
頭部・顔面 Bがひとつもなく、C2が2つ。使える治療がもっとも少ない。だから内服が繰り上がる 頭部・顔面多汗症(顔汗)
足底 手掌と同じ仕組みの汗なのに推奨度が入れ替わる。保険適用の外用薬がない 足底多汗症(足汗)

治療の進め方については、ガイドラインは患者にとって侵襲が少なく、治療費用負担が少ないものから段階的にすすめられることが推奨されるとしています(→ 多汗症の治療法と費用を比較)。外用薬やイオントフォレーシスから始め、効果が不十分なら注射、それでも難しければ内服や神経ブロック、最終手段として手術という順序です。

ひとりの患者に多汗の部位が複数存在する場合や、ひとつの治療選択肢だけでは十分な汗のコントロールが困難な状況では、複数の治療を組み合わせることも試されてよいとされています。

推奨度と保険適用は一致しない

費用を考えるうえで重要な点があります。ガイドラインが勧める治療と、保険で受けられる治療は同じではありません。

もっとも分かりやすいのが塩化アルミニウムです。腋窩・手掌で推奨度Bの第一選択でありながら、保険診療に適用のある外用薬が存在せず、各医療機関が院内製剤として調製して処方しています。逆に交感神経遮断術は最終手段でありながら保険が使えます。

ガイドラインもこの点を認識しており、保険適用の治療法が優先されるべき治療かといえば、治療にかかる費用や身体への侵襲度・簡便さ、治療効果などを検討すると必ずしも保険適用の有無のみで治療方針を決定できないと述べています。

受診の前に整理しておくとよいこと

確認すること なぜ聞かれるか
症状が出始めたのはいつ頃か 25歳以下かどうかが分かれ目
左右対称に出ているか 非対称なら続発性を疑う
睡眠中は汗が止まっているか 止まらないなら原発性の枠に収まらない
週に何回くらい汗で困るか 週1回以上が診断基準の項目
家族に同じ症状の人がいるか 診断基準の項目
ほかに症状はないか(体重減少・動悸など) 続発性の鑑別
飲んでいる薬、手術歴 薬剤性やFrey症候群の可能性
どの場面で具体的に困っているか 治療の選び方を決める最重要項目

最後の項目がもっとも重要です。ガイドラインは、多汗症の治療ゴールは患者の生活の中で発汗が起こらないように常にコントロールすることではなく、あくまで患者本人が多汗のことで損なわれている自身の生活のQOLが改善されることにあると明記しています。患者の年齢や職業、生活環境などから、十分な対話の上で適切な治療選択肢を提示する診療が望まれる、とも述べられています。

書類が濡れて字が書けない、キーボードが操作しにくい、服の汗じみが気になって着られる服が限られる、靴を脱ぐ場面が苦痛。こうした具体的な支障を伝えられるほど、提示される選択肢は的確になります。

よくある質問

汗をかきやすいだけでも多汗症ですか

ガイドラインの定義には「日常生活に支障をきたした状態」という条件が含まれています。量そのものより、生活が妨げられているかどうかが基準です。診断基準では、原因不明の過剰な局所性発汗が6か月以上持続していることに加え、6項目中2項目以上を満たすことが求められます。

何科を受診すればいいですか

皮膚科が主な診療科です。ただし治療法によって対応できる医療機関が限られます。イオントフォレーシスは機器を導入している医療機関、ボツリヌス注射は所定の講習を修了した医師のいる医療機関、塩化アルミニウムは院内製剤を調製している医療機関に限られます。受診前に、その医療機関が多汗症の診療を行っているかを確認しておくと確実です。

遺伝しますか

診断基準に「家族歴がみられること」が含まれていることからも分かるとおり、遺伝的な関与が示唆されています。ガイドラインは、手掌・足底の多汗症が青年期までに発症しばしば多汗症の家族歴があることから、遺伝的に生じた発汗系交感神経の病的な過活動と考えられるとしています。近年は家族歴のある多汗症の報告があり、患者の一部には何らかの遺伝子の関与も背景にあると考えられています。

ストレスが原因ですか

精神的な緊張が発汗の引き金になるのは事実ですが、それが原因のすべてではありません。手掌・足底の汗は精神性発汗と呼ばれ、暗算、恐怖、痛み、不安などで誘発されます。ただしこれはもともと備わっている生理的な仕組みであり、多汗症はその反応が病的に過剰になった状態です。ガイドラインは精神(心理)療法を推奨度C1で挙げていますが、エビデンスレベルの高い報告は見当たらないとしています。

更年期の汗も多汗症ですか

更年期障害による発汗は続発性多汗症にあたり、原発性局所多汗症とは区別されます。多汗症治療薬の臨床試験でも、更年期障害により多汗の症状が発現している患者は除外基準に含まれています。ただし対応が不可能というわけではなく、前額の多汗で悩む更年期女性にボツリヌス注射を行った症例報告もあります。

子どもでも多汗症になりますか

手掌多汗症の発症平均年齢は13.8歳、足底は15.9歳です。ガイドラインは掌蹠多汗症について、多汗症のなかでは比較的早期、小学校就学時期くらいから自覚することが多いと記しています。学校生活での支障もあるため、早めの相談には意味があります。薬剤ごとに対象年齢が定められているので、医療機関に確認してください。

参考にした一次資料

本記事はガイドラインの概念・分類・病態・疫学・臨床症状と検査・治療法と予後の各章をもとにまとめています。診断や治療の適否は個々の状態によって異なりますので、実際の判断は医療機関にご相談ください。

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