「多汗症を改善するトレーニング」「汗を止めるツボ」。検索すればいくらでも出てきます。
ただ、正直に書きます。日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」(PDF)に、ツボもサウナもトレーニングも記載がありません。効かないと結論されているのではなく、評価の対象になっていない状態です。
その一方で、ガイドラインが明示的に勧めている対策はあります。汗を直接減らす方法ではありませんが、生活の質という観点では確かな根拠を持つものです。この記事では、根拠のある対策とない対策を区別して整理します。
ガイドラインが勧めている唯一の「対策」
治療法の解説の最後に、ガイドラインは次のように記しています。
汗を直接減らす治療とは異なるが、汗をかいても生活がしやすくサポートになるような衣類や生活用品を適宜取り入れることや、必要に応じて心理療法や交感神経遮断術前の神経ブロックなども検討されたい。
これが、ガイドラインが対策として明示的に挙げている内容です。「汗を減らす」ことと「汗があっても生活しやすくする」ことを、はっきり分けている点に注目してください。
そして治療のゴールについても、同じ考え方が貫かれています。患者の生活の中で発汗が起こらないように常にコントロールすることではなく、あくまで患者本人が多汗のことで損なわれている自身の生活のQOLが改善されることにある、というのがガイドラインの立場です。
汗をゼロにすることは目標ではありません。この前提に立つと、対策の意味が変わってきます。
衣類・生活用品|多くの人が実践している領域
ガイドラインは、原発性腋窩多汗症の患者が対策として費やす市販の衛生用品として、次の品目を挙げています。
| 品目 |
|---|
| 衣類、タオル、わき汗パッド、制汗剤、身体用洗浄料、食品、サプリメント |
2012年から2019年に原発性腋窩多汗症と診断された1,447人を対象とした調査では、これらの年間コストは245億円と推定されています。同じ調査で全般労働障害率は30.52%、生産性損失は1か月あたり3,129億円とされました。
すでに多くの人が実践している領域だということです。ただし数字が示しているのは、グッズで対処しながらも本来の力を発揮できていない状態でもあります。
足では、医学的な意味がもうひとつある
足底多汗症の場合、湿潤環境を減らすことには別の意味があります。
ガイドラインは、汗で長時間湿潤した皮膚は汗疹を生じやすく表皮が浸軟して剥脱すること、さらに真菌や細菌、ウイルスの感染を起こしやすいため足白癬や尋常性疣贅を認めることがあると記しています。
靴や靴下の工夫は、見た目や不快感の問題だけでなく、感染症の予防という意味を持ちます。すでに水虫やいぼがある場合は、そちらの治療が必要です。
市販の制汗剤|第一選択の成分と同じ
市販の制汗剤の多くはアルミニウム塩系で、なかでも塩化アルミニウムは医療機関でも使われる成分です。ガイドラインは塩化アルミニウム外用療法について、腋窩・手掌に対して推奨度B(行うよう勧められる)としています。
市販品で対処すること自体は、方向として外れていません。違うのは濃度です。
| 対象 | ガイドラインが示す濃度 | 方法 |
|---|---|---|
| 腋窩全般、掌蹠の軽症例 | 20〜30% | 就寝前に単純外用 |
| 頭部・顔面 | 10〜20% | 就寝前に単純外用。眼・眼囲・口唇周囲は避ける |
| 掌蹠の中等症〜重症例 | 20〜50% | ODT(密封療法) |
市販品は日常使用の安全性を考慮して低めに設定されているのが一般的です。手のひらや足の裏の中等症以上には届かないことがあります。
使い方のコツはガイドラインに書いてある
処方薬向けの記述ですが、市販品にも応用できる内容です。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 就寝前に使う | ガイドラインが示す外用方法は、いずれも就寝前。日中に外用してもよいとされているが基本は就寝前 |
| 効果が出るまで続ける | 効果が出るまで連日投与し、効果が出た後は発汗の様子により間隔をあける。手掌では20%外用の効果が48時間以内という報告がある |
| 肌が荒れたら3つの調整 | 濃度を薄める/投与間隔を調節する/短時間外用で洗い流す |
| 傷がある部位は保護する | あらかじめ白色ワセリンなどで保護を行う |
もっとも多い副作用は刺激性接触皮膚炎で、外用の中止またはステロイド軟膏の外用により軽快します。症状が続く場合は皮膚科に相談してください。
アルミニウムの安全性について
アルミニウムとアルツハイマー病の関連を心配する声について、ガイドラインは現在まで皮膚に塩化アルミニウムを外用することでの因果関係を報告した論文はないと明記しています。手掌の単純外用では血中の塩化アルミニウム濃度の上昇が認められなかったという報告もあり、多汗症に対しての外用療法に則った使用に関して関連はないと考える、という立場です。
リラックス系の方法|C1とC2に分かれる
ガイドラインは精神(心理)療法を治療の選択肢として挙げています。ただし評価は率直で、多汗症に対する精神(心理)療法は古くから行われているが、エビデンスレベルの高い報告は見当たらず、そのほとんどは症例報告や総説での記述であり、症例報告も古い文献が多いため詳細は不明な点があるとしています。
| 方法 | 推奨度 | 内容と根拠 |
|---|---|---|
| 自律訓練法 | C1 | 手や腕の力を抜くなどして意識的に温感を感じる一種の自己催眠法。手掌の温度や発汗に関する自己暗示をして自律神経をコントロールする。日本語で解説をした報告がある |
| バイオフィードバック療法 | C1 | 手掌に温度センサーや発汗センサーを取り付け、表示された値を見ながら発汗を減らそうと意識する。海外の報告では14名中11名で発汗が減少 |
| 催眠療法 | C1 | トランス状態に誘導し、手掌の温度を下げて発汗が減るという暗示を与える。催眠感受性に個人差があり、集団としての解析が難しい |
| 認知行動療法 | C2 | 海外の後方的調査でフルオキセチン(抗うつ薬)、認知行動療法、クロナゼパム、ガバペンチンを比較したところ、フルオキセチンのみが有意に改善したとされる |
推奨度のC1は「行うことを考慮してもよいが十分な根拠がない」、C2は「根拠がないので勧められない」です。認知行動療法だけがC2に置かれています。
このうち自分だけで取り組めるのは自律訓練法です。バイオフィードバック療法は機器が必要で、催眠療法は施術者が必要になります。
なお日本では、バイオフィードバック療法と漢方薬の併用により発汗頻度が減少したという症例報告があります。ガイドラインで漢方に触れているのは、この一箇所だけです。
ガイドラインに記載のない方法
ここは正直に書きます。検索でよく見かける次の方法について、ガイドラインに記載はありません。
| 方法 | ガイドラインでの扱い |
|---|---|
| ツボ、お灸 | 記載なし |
| サウナ、汗をかく習慣づけ | 記載なし |
| 食事の制限(辛いもの、カフェインなど) | 多汗症の対策としての記載なし ※味覚性発汗の機序としてカプサイシンとTRPV1の説明はある |
| サプリメント | 患者が対策として費やす品目のひとつとして挙げられているのみ。有効性の記載なし |
| 改善トレーニング | 記載なし |
効かないと結論されているわけではありません。評価の対象になっていない、という状態です。
ただし、ここで押さえておきたい事実があります。ガイドラインは病態について、多汗症患者の汗腺は健常者と比較して汗腺数や大きさなど組織病理学的な異同はないとし、汗腺の発汗機能が亢進している状態だと説明しています。そして手掌・足底の多汗症については、遺伝的に生じた発汗系交感神経の病的な過活動と考えられるとしています。
体質や生活習慣の乱れが原因ではないということです。トレーニングや食事で体質を変えるという発想は、この病態の理解とは合いません。
「精神的に弱いから」ではない
対策を探している人の多くが、緊張やストレスを原因だと考えています。ここは事実で整理できます。
手のひらや足の裏の汗は精神性発汗と呼ばれ、暗算、恐怖、痛み、不安といった精神的な負荷で誘発されます。この呼び名から「メンタルの問題」と受け取られがちですが、それは誘因であって原因ではありません。
ガイドラインによれば、手掌・足底の発汗は発生学的にマウスやイヌ、ネコの足裏の肉球における発汗と同一のものです。動物の足裏の汗は、敵から逃げるときや高いところに飛び移るときの「滑り止め」の役割を持っています。緊張すると手に汗をかくのは、生物として備わった仕組みです。
多汗症は、その仕組みへの入力刺激に対して病的に持続的な多量発汗が生じる状態を指します。反応の強さの問題であって、精神力の問題ではありません。
ただし、精神面との関連は無視できないものでもあります。腋窩多汗症がある患者の不安障害の有病率は23.1%、うつ病は27.2%で、多汗症がない患者(7.5%、9.7%)より有意に高いという研究があります。因果の方向は単純ではなく、国内の研究では発汗量が減って治療が有効だった44人のうち27.2%が治療後に抑うつ度で増悪しました。ガイドラインは、多汗症状が改善したにもかかわらず不安やうつ傾向が改善しない場合には多汗症以外の疾患についての考慮も必要だと述べています。
季節と時間帯で変わることを知っておく
対策を評価するときに知っておくと役立つ事実があります。掌蹠の発汗量には日内変動と季節変動があります。
| 変動 | 内容 |
|---|---|
| 日内変動 | 日中の覚醒時に発汗が多く、大脳皮質の活動が低下する睡眠中は発汗が停止する |
| 季節変動 | 冬季の皮膚血流量が低下する時期に減少し、夏季の皮膚血流量が増加する時期に増える |
何かを試したあとに汗が減ったとしても、季節の変化による可能性があります。逆に、冬に効いた方法が夏に効かないこともある。自己判断で効果を見極めるのが難しい理由のひとつです。
対策で足りないと感じたら
ガイドラインは、局所多汗症の治療は患者本人が困らなければ行う必要はなく、患者自らの希望により治療は開始されるべきだとしています。裏を返せば、本人が困っているなら、それが受診の理由として十分です。
| 状況 | 受診で得られること |
|---|---|
| 市販の制汗剤で効果が不十分 | より高濃度の院内製剤、作用機序の異なる外用抗コリン薬という選択肢 |
| 制汗剤で肌が荒れる | 濃度・間隔・外用時間の調整、皮膚炎への処置 |
| 手のひらの汗で困っている | 2023年6月からアポハイドローション20%が保険適用。イオントフォレーシスも推奨度B |
| 脇の汗が重度 | ボツリヌス注射が保険適用になる可能性(HDSS3または4) |
| 水虫やいぼをともなう | 感染症の治療が必要 |
| 汗以外の症状がある | 続発性の可能性。原因疾患の検索が優先 |
とくに最後の項目は、対策では解決しません。体重減少、動悸、発熱をともなう場合や、睡眠中も汗が出続ける場合、25歳を大きく過ぎてから急に始まった場合、新しい薬を飲み始めてから増えた場合は、別の原因を確認する必要があります。
選択肢は2020年以降で増えた
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2012年11月 | 重度の原発性腋窩多汗症にボツリヌス毒素の局注が保険適用 |
| 2020年9月 | エクロックゲル5%が国内初の原発性腋窩多汗症治療薬として承認 |
| 2022年1月 | ラピフォートワイプ2.5%が承認 |
| 2023年6月 | アポハイドローション20%が発売。手掌多汗症で保険適用の外用剤としては日本初 |
2020年の国内調査で受診経験率4.6%・継続率0.7%という数字が測られたのは、手のひらに使える保険適用の薬が登場する3年前でした。以前に受診して選択肢がないと言われた経験がある方も、状況は変わっています。
よくある質問
汗を止めるツボは効きますか
ガイドラインにツボやお灸についての記載はありません。効かないと結論されているのではなく、評価の対象になっていない状態です。なお、ガイドラインが推奨度C1で挙げている方法のうち自律訓練法は自分で取り組めるもので、手や腕の力を抜いて意識的に温感を感じる自己催眠法です。
サウナで汗腺を鍛えると改善しますか
ガイドラインに記載はありません。また病態としては、多汗症患者の汗腺は健常者と汗腺数や大きさに違いがないとされており、汗腺の機能が亢進している状態と考えられています。「汗腺を鍛える」という発想がこの病態にどう作用するかについて、根拠は示されていません。
食べ物を変えれば改善しますか
多汗症の対策として食事制限を勧める記載はガイドラインにありません。ただし味覚性発汗については、トウガラシに含まれるカプサイシンが温度感受性受容体TRPV1を刺激して生じる発汗であることが判明しています。辛いものを食べたときに顔から汗が出るのは、誰にでも起こる生理的な反応です。
制汗剤は毎日使ってもいいですか
ガイドラインが示す塩化アルミニウムの使い方は、効果が出るまで連日投与し、効果が出た後は発汗の様子により間隔をあけるというものです。肌が荒れる場合は、濃度を薄める・投与間隔を調節する・短時間外用で洗い流すという3つの調整が挙げられています。製品ごとの用法は表示に従ってください。
汗をかかないようにするのは体に悪くないですか
ガイドラインは、エクリン汗腺が体温調節機能を担うほか、皮膚表面の適度な湿度を供給する機能や自然免疫などによる防御作用も注目されている、と記しています。汗には役割があります。ただし外用薬による治療は部位を限定して行われるため、手のひらや脇の汗を抑えても全身の体温調節には影響しません。一方、内服の抗コリン薬には高体温という副作用があり、高温・多湿や運動時など発汗が促進される環境では服用を控えるという指導が示されています。
いつまで対策を続ければいいですか
いずれの方法も汗腺そのものを変えるものではありません。塩化アルミニウムについては、長年にわたって表皮内汗管がダメージを受け続けることで分泌細胞が廃用性に萎縮するという機序が想定されており、継続した外用が望ましいとされています。継続を前提に、費用と手間の両面で無理のない方法を選ぶことが現実的です。治療全体の順序と費用は多汗症の治療法と費用の比較で整理しています。
参考にした一次資料
- 日本皮膚科学会ガイドライン 原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版(2023年12月一部改訂)/PDF(日皮会誌 133巻13号 3025-3056、2023年)
- 同ガイドラインの掲載ページ(J-STAGE) ※書誌情報と引用文献一覧
本記事はガイドラインのCQ1(塩化アルミニウム)、CQ10(精神・心理療法)、病態、疫学および治療アルゴリズムの解説をもとにまとめています。ガイドラインに記載のない方法については、その旨を明記しました。市販品の使用方法は各製品の表示に従い、皮膚に異常が生じた場合は使用を中止して医療機関にご相談ください。

