手のひらや脇ではなく、体じゅうから汗が出る。背中や首がいつも湿っている。この場合、多汗症の中でも扱いが変わります。
日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」(PDF)は、その名のとおり局所の多汗症を対象としています。手掌・足底・腋窩・頭部顔面の四部位です。全身性多汗症は、このガイドラインの対象外にあたります。
だからといって放置してよいわけではありません。むしろ逆で、全身の発汗が増える場合は、別の病気や薬が原因である可能性を先に確認する必要があります。この記事では、全身性多汗症の位置づけと、確認すべきことを整理します。
まず、局所と全身では意味が違う
ガイドラインは多汗症を、発汗が増える範囲と原因の有無で4つに分類しています。
| 原発性(特発性) | 続発性 | |
|---|---|---|
| 全身性 (全身の発汗が増加) |
原発性全身性多汗症 ※原因が特定できないもの |
続発性全身性多汗症 薬剤性、内分泌・代謝疾患、感染症、悪性腫瘍、神経学的疾患など |
| 局所性 (体の一部のみ増加) |
原発性局所多汗症 (手掌・足底・腋窩・頭部顔面) |
続発性局所多汗症 (Frey症候群、代償性発汗など) |
局所多汗症については、2020年以降に保険適用の外用薬が3剤登場し、治療の選択肢が大きく広がりました。ところがこれらはいずれも部位を限定した薬です。エクロックゲル5%とラピフォートワイプ2.5%は腋窩のみ、アポハイドローション20%は手掌のみに適応があります。
全身の発汗に塗る外用薬という選択肢は、存在しません。
全身性で先に確認すべきこと
ガイドラインが挙げる続発性全身性多汗症の原因は次のとおりです。
| 分類 | 原因 |
|---|---|
| 薬剤 | 薬剤性、薬物乱用 |
| 内分泌・代謝疾患 | 甲状腺機能亢進症、低血糖、褐色細胞腫、末端肥大症、カルチノイド腫瘍 |
| 感染症 | 結核など |
| 循環器・呼吸器 | 循環器疾患、呼吸不全 |
| 悪性腫瘍 | ― |
| 神経学的疾患 | パーキンソン病 |
これらの場合、まず原因となっている病気の治療や、原因となった薬剤の変更が必要になります。汗そのものを抑える治療を続けても解決しません(→ 続発性多汗症の原因と受診の目安)。
受診を急ぐべきサイン
汗以外の症状をともなう場合は、原因疾患の検索が優先されます。
| 症状 | 考えられる背景 |
|---|---|
| 体重減少、動悸、手のふるえ | 甲状腺機能亢進症など |
| 発熱、長引く咳 | 感染症など |
| 強い空腹感、意識がぼんやりする | 低血糖など |
| 血圧の変動、頭痛 | 褐色細胞腫など |
| 手足の動かしにくさ、しびれ | 神経学的疾患など |
| 新しい薬を飲み始めてから増えた | 薬剤性 |
| 睡眠中も汗が出続ける | 原発性の典型から外れる |
| 25歳を大きく過ぎてから急に始まった | 同上 |
薬歴は自分から伝えないと医師が把握できません。市販薬やサプリメントを含めて、飲んでいるものはすべて伝えてください。
神経疾患による発汗の変化
ガイドラインは、神経疾患について大脳皮質の障害により発汗機能の亢進や低下が認められると記しています。脳梗塞で麻痺側の発汗量が増加すること、体温中枢のある視床下部を含む間脳の障害、脊髄損傷による自律神経障害などによって多汗が起きることがあります。
また、体のある部位が汗をかかなくなると別の部位で汗が増えることがあります。ガイドラインは、中枢または末梢神経障害による無汗からおこる他部位での代償性発汗として、脳梗塞、脊椎損傷、神経障害、Ross症候群を挙げています。「全身の汗が増えた」と感じていても、実際には一部が無汗になった結果であることがあるということです。
背中や首の汗はどう扱われるか
ガイドラインが対象とする原発性局所多汗症は、手掌・足底・腋窩・頭部顔面の四部位です。背中や首は含まれていません。
ただし、これらの部位が汗をかかないという意味ではありません。ガイドラインは腋窩について、手掌・足底以外の全身と同様に温熱負荷に対して発汗が生じる温熱性発汗が主体の部位だと説明しています。精神的な負荷でも発汗しますが、それは腋窩に限らず全身の体表面で生じる現象です。
つまり背中や首の汗は、体温調節としての全身の発汗の一部として理解されます。手のひらの汗が肉球起源の精神性発汗という特殊な仕組みであるのとは対照的です。
背中の汗が気になる場合、確認すべきなのは次の2つです。
| 確認すること | 意味 |
|---|---|
| 本当に全身なのか、背中だけなのか | 局所に限られるなら、続発性局所多汗症(エクリン母斑、神経障害など)の可能性もある |
| ETSなどの手術歴があるか | 交感神経遮断術の後に体幹の発汗が増える代償性発汗が高率に起こる |
手術歴がある場合、それは多汗症の手術と代償性発汗で扱う代償性発汗にあたります。ガイドラインはこれを無くすことは現時点ではできず、有効な治療法もないと明記しています。
治療|内服が中心になる
ガイドラインの多汗症診療アルゴリズムでは、全身性多汗症に対して内服抗コリン薬が示されています。局所の治療で使われる外用薬・イオントフォレーシス・ボツリヌス注射は、いずれも部位を限定した治療であり、全身には適用できません。
プロ・バンサイン|部位を問わず使える
国内で唯一、多汗症に保険適用を持つ内服の抗コリン薬がプロパンテリン臭化物(プロ・バンサイン)です。1回1錠(15mg)を1日3〜4回、食前に服用します。
ガイドラインは局所性だけでなく全身性の多汗症についても使用できるとしています。推奨度はC1で、根拠は1950年代に掌蹠多汗症を対象として行われたエビデンスレベルIVの研究です。
また患者の用途に合わせて適時服薬としてもよいとされており、常用ではなく必要な場面だけ飲むという使い方も想定されています。
海外では全身性を対象とした比較試験がある
興味深いのは、海外で使われている内服薬の根拠が全身性多汗症の試験だという点です。
ドイツではボルナプリン塩酸塩(本邦未発売)が多汗症に対する第一選択の内服薬とされていますが、その根拠になっているのは全身性多汗症を対象としたランダム比較試験です。ガイドラインは、局所多汗症に対する推奨度をC1としています。
もうひとつ、メタンテリニウム臭化物(本邦未発売)のランダム比較試験も行われており、腋窩多汗症に対しては有効(推奨度B)とされる一方、掌蹠多汗症に対しては効果がないという結果でした。
同じ内服薬でも、全身性と局所性で、また局所でも部位によって効き方が違うということです。
抗コリン薬の注意点
内服の抗コリン薬には共通の注意があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 禁忌 | 前立腺肥大、閉塞隅角緑内障。緑内障の内容が不明な場合は眼科医への確認が必要 |
| 主な副作用 | 口渇、かすみ目、ドライアイ、起立性低血圧、胃腸不良、尿閉、頻脈、眠気、めまい、混迷 |
| 高体温 | 全身の発汗を抑える薬ならではのリスク。汗をかくべき場面で汗をかけないと体温調節が働かない |
とくに高体温は、全身性多汗症で内服を使う場合に重要です。薬剤師向けの専門誌『ファーマスタイル』は、複数の抗コリン薬を併用する場合の指導として、内服は頓用で用いること、高温・多湿や運動時など発汗が促進される環境では服用を控えることを挙げています。
長期内服と認知機能
ガイドラインは、抗コリン薬の長期内服による認知機能低下について独立した注記を設けています。多汗症の患者は青年期から長期にわたって内服する可能性があるためです。
2015年のJAMA Internal Medicineの報告では、65歳以上の高齢者が3年以上常用量の抗コリン作用のある薬を使用すると最大1.5倍程度の認知症リスク増加が生じる可能性があるとされ、2018年のBMJの研究では用量の増加に伴ってオッズ比が最大1.65まで上昇しました。2020年のメタ解析では発症リスクを20%有意に増加させるとされ、高齢者における3か月以上の使用は極力控えることが望ましいと結論されています。
ただし薬剤による差があります。海外で使われるオキシブチニンの内服は脂溶性が高く血液脳関門を通過しやすいためACBスコア3に分類され、高齢者への使用は避けるべき(推奨度D)、若年からの長期服薬も推奨できないとされています。一方、日本で保険収載されているプロパンテリンは4級アミンで血液脳関門の透過性が低く、現時点では中枢神経系の副作用のリスクは少ないと考えられるとされています。
汗を減らす以外にできること
ガイドラインは治療の限界にも触れています。これらの治療を行っても十分な治療効果が得られない場合もあるとしたうえで、次のように述べています。
汗を直接減らす治療とは異なるが、汗をかいても生活がしやすくサポートになるような衣類や生活用品を適宜取り入れることや、必要に応じて心理療法や交感神経遮断術前の神経ブロックなども検討されたい。
全身性の場合、部位を絞った治療が使えないぶん、この視点の比重が大きくなります。「汗を減らす」ことと「汗があっても生活しやすくする」ことは別だという整理です。
精神(心理)療法についても、ガイドラインは催眠療法・バイオフィードバック療法・自律訓練法をいずれも推奨度C1で挙げています。ただしエビデンスレベルの高い報告は見当たらず、そのほとんどは症例報告や総説での記述だとしており、認知行動療法にいたっては推奨度C2(勧められない)です。
何科を受診するか
局所多汗症であれば皮膚科が主な診療科です。ただし全身性の場合は、原因の可能性によって変わります。
| 状況 | 相談先の目安 |
|---|---|
| 全身の汗に加えて体重減少・動悸がある | 内科(甲状腺機能の確認など) |
| 手足の動かしにくさ、しびれをともなう | 脳神経内科 |
| 新しい薬を飲み始めてから増えた | その薬を処方した医療機関 |
| 手術(ETSなど)の後から増えた | 手術を受けた診療科 |
| 上記に当てはまらない | かかりつけ医または内科。原発性の可能性が高ければ皮膚科を紹介してもらう |
皮膚科をいきなり受診しても間違いではありませんが、全身性の場合は原因の検索が先になるため、内科やかかりつけ医のほうが話が早いことがあります。
受診時に伝えること
| 伝えること | なぜ重要か |
|---|---|
| 本当に全身か、部位が限られるか | 分類の起点。局所なら別のアプローチがある |
| 汗が増えた時期 | 25歳を大きく過ぎてからなら続発性を疑う |
| 睡眠中も出るかどうか | 原発性の枠に収まるかの判断材料 |
| 飲んでいる薬すべて | 薬剤性の可能性。市販薬・サプリメントも含めて |
| 手術歴・外傷歴 | 代償性発汗やFrey症候群の可能性 |
| 汗以外の症状 | 体重減少、動悸、発熱、しびれなど |
| 家族に同じ症状の人がいるか | 原発性では家族歴がみられることがある |
| どの場面で具体的に困っているか | 治療の必要性の判断材料 |
ガイドラインは、多汗症の治療について患者本人が困らなければ行う必要はなく、患者自らの希望により治療は開始されるべきだとしています。そのうえで治療のゴールは、発汗が起こらないように常にコントロールすることではなく、多汗によって損なわれている生活の質が改善されることにあると明記しています。
よくある質問
全身から汗が出るのは多汗症ですか
全身の発汗が増加するものは全身性多汗症に分類されます。そのうち特に原因のないものが原発性全身性多汗症、他の疾患に合併して起きるものが続発性全身性多汗症です。全身性の場合、続発性の可能性を先に確認する必要があります。
全身性に使える塗り薬はありますか
保険適用の外用抗コリン薬(エクロックゲル、ラピフォートワイプ、アポハイドローション)は、いずれも腋窩または手掌のみに適応があります。全身に塗る外用薬という選択肢はありません。塩化アルミニウムは部位を問わず院内製剤として調製されますが、全身に外用する使い方はガイドラインに示されていません。
背中の汗だけが気になります
背中はガイドラインが対象とする四部位(手掌・足底・腋窩・頭部顔面)に含まれません。まず本当に背中だけなのか、全身の一部として認識しているのかを確認してください。ETSなど交感神経の手術を受けた経験がある場合は、代償性発汗の可能性があります。局所に限られる場合は、続発性局所多汗症(エクリン母斑、神経障害など)も考えられます。
寝汗がひどいのですが
手掌・足底の精神性発汗は睡眠中に停止するのが原則です。ガイドラインも、発汗量には日内変動があり大脳皮質の活動が低下する睡眠中は発汗停止すると記しています。睡眠中の発汗が続く場合は原発性局所多汗症の典型から外れるため、感染症や内分泌疾患など続発性の原因を確認する必要があります。
更年期の汗も全身性多汗症ですか
更年期障害による発汗は続発性にあたります。多汗症治療薬の臨床試験でも、更年期障害により多汗の症状が発現している患者は除外基準に含まれています。ただし対応が不可能というわけではなく、前額の多汗で悩む更年期女性へのボツリヌス注射で発汗量の低下が観察された症例報告や、星状神経節近傍への低出力レーザー照射が有効性を示した報告はガイドラインに記載されています。
手術で全身の汗を止められますか
交感神経遮断術(ETS)は手掌多汗症に対して条件付き推奨度Bですが、これは手のひらの発汗を止める手術です。全身の発汗を止めるものではありません。むしろ術後に体幹などに大量の汗が出る代償性発汗が高率に生じ、ガイドラインはこれを無くすことは現時点ではできず有効な治療法もないと明記しています。全身性多汗症に対する手術という選択肢はありません。
漢方は使えますか
ガイドラインには漢方薬についての独立した推奨項目はありません。ただし医療用の防已黄耆湯は添付文書の効能または効果に「多汗症」が明記されており、保険適用があります。「色白で筋肉軟らかく水ぶとりの体質で疲れやすく、汗が多く、小便不利で下肢に浮腫をきたし、膝関節の腫痛するもの」という条件が付されているため、体質が合うかどうかの判断が必要です。
参考にした一次資料
- 日本皮膚科学会ガイドライン 原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版(2023年12月一部改訂)/PDF(日皮会誌 133巻13号 3025-3056、2023年)
- 同ガイドラインの掲載ページ(J-STAGE) ※書誌情報と引用文献一覧
- 外用剤の登場で身近に「多汗症」治療を整理|ファーマスタイルWEB(2025年7月号) ※薬剤師向け専門誌
本記事は、上記ガイドラインが原発性局所多汗症を対象としていることを前提に、全身性多汗症について記載のある分類(表1)・病態・CQ5(内服療法)および診療アルゴリズムの解説をもとにまとめています。全身性の発汗については原因疾患の検索が優先される場合があります。診断や治療の判断は医療機関にご相談ください。

