腋窩多汗症(脇汗)とわきがの違い|見分け方と治療法【2026年最新】

脇の汗の悩みには、性質のまったく違う2つの問題が混ざっています。汗の量の問題(腋窩多汗症)と、においの問題(腋臭症・ワキガ)です。原因となる汗腺が違い、保険で受けられる治療も違います。

そして意外なことに、ガイドラインは腋窩の発汗量そのものは決して多くないとしています。それでも脇汗が深刻な悩みになるのには、はっきりした理由があります。

この記事では、日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」(PDF)をもとに、両者の見分け方と、腋窩多汗症の治療の全体像を整理します。

目次

まず整理|腋窩多汗症と腋臭症は別の疾患

項目 腋窩多汗症(脇汗) 腋臭症(ワキガ)
原因となる汗腺 エクリン汗腺 アポクリン汗腺
汗の性質 サラサラ。基本的に無臭 ベタつき。皮膚常在菌に分解されて独特のにおいを発する
主な症状 多量の発汗、衣服の汗じみ 特有のにおい
保険適用の外用薬 あり(エクロックゲル、ラピフォートワイプ) なし
保険適用の手術 交感神経遮断術(条件付き) アポクリン腺の除去術

ガイドラインの記述によれば、腋臭症はアポクリン汗腺から分泌された汗の中の脂肪酸が皮膚常在菌によって分解され、独特のにおいを発生させるものです。一方、エクリン汗腺による多汗症の汗は基本的に無臭とされています。

ただし臨床では、原発性腋窩多汗症と腋臭症の合併例も少なくありません。「脇の悩み」としてひとくくりにされがちですが、どちらが主な問題なのかで治療の方向が変わります。

脇汗は「量が多い」のではなく「条件が悪い」

ここが腋窩多汗症を理解するうえで、もっとも意外な点です。

ガイドラインは、腋窩について次のように説明しています。腋窩は手掌・足底以外の全身と同様に、温熱負荷に対して発汗が生じる温熱性発汗が主体の部位です。精神的な負荷でも発汗しますが、これは腋窩以外の全身体表面でも生じる現象です。手掌の精神性発汗とは別の機序で、発汗の波も完全には同期していません。

そのうえで、こう続きます。

腋窩の発汗量そのものは多くなくても、低体温で早期に発汗が開始すること、腕で塞がれた部位で汗が蒸発しにくいことから、少量の発汗でも発汗過多と認識されやすい。

腋窩は全身に比べて発汗開始の体温閾値がもっとも低く、全身が発汗しないような低体温でも汗が出ます。加えて腕でふさがれているため汗が蒸発せず、そのまま衣服に染みる。量ではなく、出るタイミングの早さと蒸発しにくさが問題だということです。

生理的には合理的な仕組みでもあります。腋窩には体表面近くに太い血管が存在し、体温冷却には有利な部位です。スポーツの試合前などで筋活動の亢進が予想されるときに、緊張や興奮で腋窩の発汗が生じるのは、体温冷却の準備としては理にかなっています。

この「少量でも過多と認識される」という構造は、治療の考え方にも関わります。ガイドラインが治療のゴールを発汗量のコントロールではなく生活の質の改善に置いているのは、まさにこうした部位で意味を持ちます。

どのくらいの人が悩んでいるのか

腋窩は、四つの部位のなかで有病率がもっとも高い部位です。

調査 腋窩多汗症の有病率 備考
2013年・国内5,807人 5.75% 原発性局所多汗症全体は12.8%(手掌5.33%、頭部4.7%、足底2.79%)
2020年・国内60,969人 5.9% 全体は10.0%(頭部・顔面3.6%、手掌2.9%、足底2.3%)

発症の平均年齢は19.5歳。手掌の13.8歳より遅く、足底の15.9歳よりも遅い時期です。ガイドラインは、腋窩多汗症について第二次性徴を迎える思春期あたりから自覚することが多いとし、衣服に汗が映り込むことが整容面から社会生活に支障をきたすと記しています。

労働生産性の損失は月3,129億円

腋窩多汗症については、生活への影響を定量化した調査があります。

2012年から2019年に原発性腋窩多汗症と診断された患者1,447人を対象とした労働生産性と衛生用品費の調査では、全般労働障害率が30.52%、衛生用品費の年間コストが245億円でした。日本における腋窩多汗症の生産性損失は、1か月あたり3,129億円と推定されています。

ガイドラインが挙げる「原発性腋窩多汗症患者が対策として費やす市販の衛生用品」は、衣類、タオル、わき汗パッド、制汗剤、身体用洗浄料、食品、サプリメントに及びます。汗のことで欠席はしないものの、本来の力を発揮できていない状態が数字に表れています。

2021年に行われたインターネット調査(対象70,358人のうち、問診で原発性腋窩多汗症の診断基準を満たし重症度がHDSS3以上である対象)では、症状により学業や仕事への影響があったと回答したのは17.1%。その内訳でもっとも多かったのが「希望の職種・職業を諦めた経験がある」で6.6%でした。

不安障害・うつとの関連

精神面への影響も報告されています。カナダと中国の皮膚科外来患者2,017名を対象とした研究では、腋窩多汗症がある患者の不安障害の有病率は23.1%、うつ病は27.2%で、多汗症がない患者(それぞれ7.5%、9.7%)よりも有意に高いという結果でした。

別の研究では、うつと不安を測定する質問表を用いて197名を検討したところ、不安症状の有病率は49.2%と高く、部位別では腋窩と頭部顔面の多汗症において高頻度であったとされています。

ただし治療で汗が減れば精神症状も必ず改善するかというと、そう単純ではありません。国内の研究では、発汗量が減って治療が有効だった44人のうち、治療後に抑うつ度が増悪した患者が27.2%認められています。ガイドラインは、多汗症状が改善したにもかかわらず不安やうつ傾向が改善しない場合には、多汗症以外の疾患についての考慮も必要だと述べています。

腋窩多汗症かどうかを確かめる

ガイドラインは、局所多汗症の診断基準としてHornbergerらの基準を採用しています。局所的に過剰な発汗が明らかな原因のないまま6か月以上認められ、かつ次の6項目のうち2項目以上に当てはまる場合を多汗症と診断します。

確認すること 腋窩多汗症で見るポイント
最初に症状が出たのが25歳以下 腋窩の発症平均年齢は19.5歳。思春期以降に自覚することが多い
左右対称に発汗がみられる 片側だけなら別の原因を疑う
睡眠中は発汗が止まっている
1週間に1回以上、多汗のエピソードがある
家族歴がみられる
それらによって日常生活に支障をきたす 汗じみで着られる服が限られる、腕を上げられないなど

そのうえで重症度をHDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)で判定します。3または4が重症で、この判定はボツリヌス注射の保険適用にも直結します。

グレード 状態 位置づけ
1 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない 軽症
2 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある 中等症
3 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある 重症
4 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある 重症

2013年の国内調査では、原発性局所多汗症と回答した人のうち46.8%がHDSS3または4を訴えていました。

腋窩は治療の道筋がもっとも整っている部位

四つの部位を比べると、腋窩の状況は際立っています。第一選択の外用薬に保険が効き、第二選択の注射にも保険が効く。重症例まで含めて保険診療で完結する道筋があるのは、腋窩だけです。

段階 治療 推奨度 保険
第一段階
(相互に使い分け)
外用抗コリン薬(エクロックゲル/ラピフォートワイプ) B 適用
10〜20%塩化アルミニウム単純外用 B 適用外(院内製剤)
第二段階 A型ボツリヌス毒素の局所注射(50〜100単位/腋窩) B 適用(重度のみ)
第三段階 機器による治療(マイクロ波など) C1 適用外
その他 内服抗コリン薬/神経ブロック/精神(心理)療法 C1 薬剤による
最終段階 交感神経遮断術(ETS) 条件付きC1 適用

手掌ではボツリヌス注射が保険適用外でC1、顔面は外用抗コリン薬もイオントフォレーシスもC2。それに比べると、腋窩の選択肢は明確に恵まれています。保険と自費でどのくらい費用が変わるかは多汗症の治療法と費用の比較で計算しています。

外用抗コリン薬|腋窩専用の2剤

2020年以降、腋窩に対して抗コリン薬の外用剤が2剤承認されました。いずれも腋窩にのみ適応があり、手や顔には使えません。薬剤ごとの詳細は多汗症の処方薬一覧にまとめています。

エクロックゲル5%(ソフピロニウム臭化物)は、2020年9月に本邦初の原発性腋窩多汗症治療薬として承認されました。ボトルから直接塗布するタイプです。国内の281人を対象とした6週間の二重盲検試験で、HDSSが1または2かつ発汗の総重量がベースラインの50%以上減少した患者の割合は実薬群53.9%、基剤群36.4%。52週間の長期投与では、抗コリン作用に関連した有害事象は口渇1.4%、便秘と散瞳が0.7%と低い結果でした。

ラピフォートワイプ2.5%(グリコピロニウムトシル酸塩水和物)は2022年1月に承認された、1回使い切りのワイプ剤です。国内497人の4週間試験で、HDSSが2点以上改善かつ発汗量が50%以上減少した患者の割合は3.75%製剤で51.6%(基剤群14.6%)でした。52週の長期投与では発汗重量が50%以上改善した患者の割合が投与2週間後には約90%を達成しています。

ただし有害事象はエクロックゲルより目立ちます。52週の長期投与で散瞳・霧視が12.9%/9.3%、排尿困難・尿閉が6.7%/3.8%で発現しました。もっともガイドラインは、休薬後は回復または軽快し投与を再開できるため、投与中止または休薬に至った有害事象は少なかったとしています。

塩化アルミニウム|腋窩は濃度が低め

推奨度Bですが、保険適用の製剤が存在せず院内製剤として処方されます。腋窩は角層が手掌ほど厚くないため、濃度は10〜20%の単純外用が示されています(掌蹠の中等症〜重症は20〜50%のODT)。就寝前に発汗している局所に外用し、効果が出るまで毎日継続します。

腋窩に対する塩化アルミニウムのエビデンスは厚く、複数の報告で第一選択の治療法とされています。1978年には65人の腋窩多汗症患者にアルコールに溶解した20%塩化アルミニウム液を単純外用したところ64人が奏功し、密封療法が必ずしも必要ないことが報告されました。

ボツリヌス注射|保険が使える唯一の部位

A型ボツリヌス毒素の局注は腋窩に対して推奨度Bで、2012年11月から重症型に対して保険診療の適用が認められています。投与量は片腋窩あたり50単位、両側合計100単位です。

320例を対象とした二重盲検ランダム化比較試験で有用性が確認されており、QOLの著しい改善も報告されています。長期のデータも蓄積しており、約5年間局注を繰り返している75症例でQOLの改善が維持できていること、15年以上繰り返している117症例で副作用なく約80%において有効期間が変わらないか延長していることが報告されています。

効果は投与後2〜3日であらわれ始め、持続期間は4〜9か月程度。再投与は16週以上あける必要があります。

機器による治療|対象は腋窩だけ

マイクロ波、超音波、高周波、レーザーを利用したデバイスによる治療は、汗腺を加熱変性させて発汗を抑制するものです。推奨度はC1で保険適用外ですが、ガイドラインは機器による治療対象を腋窩多汗症のみと考えられるとしています。

理由は、掌蹠や顔面では加熱時の神経損傷が重大な合併症となる可能性が高いためです。腋窩だけが、この治療を検討できる部位ということになります。

ただし国内のエビデンスレベルIIの報告では、患者本人の自覚(msHDSS)で2ポイント以上低下したレスポンダーの割合が3か月時点で83.3%対5.6%だったのに対し、12か月時点では38.9%対16.7%で有意差が消えています。また、遠位腕神経叢損傷に伴う神経損傷が数か月から1年後も持続していたとする報告が数件あり、痩せ型の患者では神経損傷のリスクがあると考えられています。

汗の薬はワキガに効くのか

ここが読者のもっとも知りたい点でしょう。原理から言えば「効かない」はずですが、報告されている事実はもう少し複雑です。

原理としては効きません。エクロックゲルなどの外用抗コリン薬が作用するのはエクリン汗腺で、ワキガの原因はアポクリン汗腺だからです。ボツリヌス注射も同様にエクリン汗腺を標的にしています。

ただし、興味深い報告があります。薬剤師向けの専門誌『ファーマスタイル』が紹介している国内の症例検討です。

原発性腋窩多汗症と腋臭症を合併した症例をソフピロニウム臭化物(エクロックゲル)で治療したところ、多汗の改善が認められなかった症例でも腋臭は改善し、腋臭症グレードが全例(10例)で改善しました。腋臭発現に関与する皮膚常在菌叢も、評価しえた全例(6例)で変化がみられたとされています。

汗が減ることで脇の湿潤環境が変わり、においの元になる菌の繁殖が抑えられた結果と考えられます。「多汗症の薬でワキガも治る」わけではありませんが、においが軽くなったと感じる人がいることには背景があるということです。

なお、ボツリヌス注射についても同様の指摘があります。発汗が抑えられることで湿潤環境が改善し、間接的ににおいが軽減したと感じる方がいるとされています。効果の持続は発汗抑制と同じく4〜9か月です。

ワキガそのものの治療

腋臭症に保険適用のある外用剤は現在ありません。保険治療はアポクリン腺を除去する手術になります。ただし手術は侵襲があり、就学・就労などの社会活動の制限も要するため、治療をためらう人も少なくありません。『ファーマスタイル』は、より簡単に治療に臨める薬剤の登場が期待されていると記しています。

においが主な悩みであれば、多汗症の治療とは別に相談する必要があります。逆に、汗じみが主な悩みであれば、保険適用の外用薬から始められます。自分の悩みがどちらなのかをはっきりさせることが、受診の第一歩です。

受診の前に整理しておくとよいこと

確認すること なぜ聞かれるか
汗の量とにおい、どちらが気になるか 腋窩多汗症か腋臭症かの分岐点
症状が出始めたのはいつ頃か 25歳以下かどうかが分かれ目。腋窩は19.5歳が平均
左右対称に出ているか 片側だけなら別の原因を疑う
睡眠中は汗が止まっているか
家族に同じ症状の人がいるか 診断基準の項目
どの場面で具体的に困っているか 治療の選び方を決める最重要項目。HDSSの判定にも関わる

最後の項目は、ボツリヌス注射の保険適用に直結します。保険で受けられるのはHDSS3または4の重症例だけであり、その判定は「発汗が日常生活をどれだけ妨げているか」で行われるからです。着られる服が限られる、腕を上げられない、人前で発表できないといった具体的な支障を伝えられるかどうかが、実際の治療選択を左右します。

よくある質問

制汗剤では対処できませんか

市販の制汗剤の多くは塩化アルミニウム系で、院内製剤と成分は共通しています。違いは濃度で、市販品は日常使用の安全性を考慮して低めに設定されているのが一般的です。腋窩は手掌より低い濃度(10〜20%)が推奨される部位なので、市販品でも一定の効果が期待できる場合があります。ただし外用抗コリン薬は作用機序そのものが異なり、市販品では代替できません。

制汗剤と処方薬を併用してもいいですか

塩化アルミニウム・クロルヒドロキシアルミニウム・ミョウバンを主成分とする一般的な制汗剤について、併用しても問題ないとしているオンラインクリニックがあります。ただし処方薬の種類や皮膚の状態によるため、診察時に確認してください。なお、ボツリヌス注射の前にMinor法で汗の出ている場所を特定する場合は、検査の1日前から制汗剤やデオドラント剤の使用を控えるよう指示されます。

脇の汗を止めると、ほかの部位の汗が増えませんか

外用薬については、取り扱っている外用薬で他の部位の汗が増えることはないとしているオンラインクリニックがあります。ボツリヌス注射では国内臨床試験144例中3例(2.08%)に首や背中などの代償性発汗が報告されていますが、稀な頻度です。一方、交感神経遮断術(ETS)では代償性発汗が高率に合併し、いったん起きたら有効な治療法がありません。治療によって前提がまったく異なります。

何歳から治療できますか

ボツリヌス注射の保険適用は15歳以上です。外用薬については、グリコピロニウムのワイプ剤の海外試験(ATMOS-1、ATMOS-2)に9歳から16歳の小児44人が含まれ、有効性は成人と同様に有意差をもって認められました。腋窩多汗症の発症平均年齢が19.5歳、思春期あたりから自覚することが多いことを考えると、10代での受診は想定された範囲です。

汗じみ対策のグッズだけで乗り切るのは難しいですか

ガイドラインは、原発性腋窩多汗症患者が対策として費やす市販の衛生用品として衣類、タオル、わき汗パッド、制汗剤、身体用洗浄料、食品、サプリメントを挙げ、その年間コストを245億円と推定しています。多くの人がグッズで対処しているのが実態です。ただし全般労働障害率30.52%という数字は、グッズで対処しながらも本来の力を発揮できていない状態を示しています。腋窩は保険適用の治療選択肢がもっとも揃っている部位なので、一度相談する価値はあります。

参考にした一次資料

腋臭症との合併例に関する記述は『ファーマスタイル』2025年7月号が紹介する症例検討(馬場香子ほか、日本職業・災害医学会会誌 72:64-70, 2024)に基づいています。治療の適否は個々の状態によって異なりますので、実際の判断は医療機関にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次