多汗症を調べていると「レベル1」「レベル3」という表現によく出会います。ところが、そのレベルが何を指しているのかは、説明しているページによって違います。
編集部が医療機関のサイトを確認したところ、「レベル」は大きく2つの意味で使われていました。汗の見た目による3段階と、HDSSという国際的な尺度の4段階です。同じ「レベル2」でも、前者なら「水滴ができる」、後者なら「我慢できるが時々支障がある」を指します。まったく別の物差しです。
この記事では、日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」(PDF)に記載されている重症度の判定方法を整理したうえで、「レベル」表記の読み方を示します。
ガイドラインが示す重症度の判定は2つ
先に結論を書きます。ガイドラインが重症度判定として記載しているのは、次の2つです。
| 方法 | 何を測るか | 段階 | 使われ方 |
|---|---|---|---|
| HDSS | 発汗が日常生活をどれだけ妨げているか(患者の自覚) | 4段階 | 問診だけで判定できるため、診察でもっともよく使われる |
| 発汗量の測定 | 実際の汗の量(客観的な測定) | 定性/定量 | 治療効果の判定にも用いられる |
ガイドラインは、この両方を行うことが望ましいとしつつ、簡便な定性的測定のみでも日常診療では十分対応できるとしています。
HDSS|日常生活への支障で分ける4段階
HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)は、Struttonらが提唱した尺度です。発汗が日常生活をどれだけ妨げているかを、患者本人の感じ方で4段階に分けます。
| グレード | 状態 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 1 | 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない | 軽症 |
| 2 | 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある | 中等症 |
| 3 | 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある | 重症 |
| 4 | 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある | 重症 |
ガイドラインは3と4を重症の指標としています。
汗の量ではなく、生活への影響を測っている
HDSSの特徴は、どの段階の記述にも汗の量が出てこないことです。すべて「日常生活への支障」で書かれています。
これは多汗症の定義そのものと一致しています。ガイドラインは原発性局所多汗症を「大量の発汗がおこり、日常生活に支障をきたした状態」と定義しており、汗が多いこと自体を病気とはしていません。治療についても、患者本人が困らなければ行う必要はなく、患者自らの希望により開始されるべきだとしています。
つまりHDSSは、多汗症という疾患の考え方をそのまま尺度にしたものです。
保険適用の判定に直結する
HDSSは診察の目安にとどまりません。ボツリヌス注射の保険適用は、HDSSが3または4であることが条件になります。
重度の原発性腋窩多汗症に対するA型ボツリヌス毒素の局注は2012年11月から保険適用となりましたが、「重度」の判定にこの尺度が使われます。診断基準(6項目中2項目以上)を満たしたうえで、HDSS3または4であることが求められる、という二段階の判定です。
新薬の治験でも効果の指標として採用されています。アポハイドローション20%の第III相試験では、「HDSSが1グレード以上改善した患者の割合」が副次評価項目となり、投与4週後で実薬群67.4%、プラセボ群42.9%という結果が出ています。ラピフォートワイプの試験では「HDSSが2点以上改善かつ発汗量が50%以上減少」が主要な指標に使われました。
問診で数分あれば判定でき、しかも保険と治験の両方で使われる。これがHDSSの実務上の位置づけです。
発汗量の測定|定性と定量
もうひとつが、実際に汗の量を測る方法です。ガイドラインは複数の測定法を挙げていますが、大きく定性的測定と定量的測定に分かれます。
定性的測定|まずはヨード紙法
ヨード紙法(汗滴プリント法)は、ゼロックス紙100gに対して1gのヨウ素を加え、デシケーターや瓶に1週間密閉保存し、ヨウ素の昇華によって茶褐色に着色したヨード紙を用いる方法です。発汗部位に触れると黒色に変色することで、発汗を視覚化します。
ガイドラインはヨード紙法が安価で簡便だとして、定性的測定の第一に挙げています。見え方は次のように記載されています。
| 程度 | ヨード紙の見え方 |
|---|---|
| 重症 | 手の形全体にべったりと黒く変色する |
| 軽症 | 主に手指の指腹、手掌の辺縁など発汗の多い部分のみが点状に変色する |
もうひとつの定性的測定がMinor法(ヨードデンプン反応)です。ヨード液を皮膚に塗布して乾燥させ、その上からデンプンを振りかけると、発汗部位が黒紫色に変色します。範囲を計測して重症度および治療効果の判定に用います。
Minor法は、ボツリヌス注射の際に汗の出ている場所を特定する目的でも使われます。この場合、患者には事前の注意として、1日前から制汗剤やデオドラント剤の使用を控え、剃毛を行っておくよう指示されます。制汗剤を使ったままでは、発汗部位が正しく染まらないためです。
定量的測定|数値で出す
数値として発汗量を出す方法もいくつかあります。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 重量計測法 | あらかじめ重量を計測したろ紙を発汗部位に5分間密着させ、汗を含んだ重量との差を発汗量とする。簡便だが、室温・湿度・季節・時間帯などの測定環境に大きく影響される |
| 換気カプセル法 | 皮膚面を密閉したカプセルに一定流量で乾燥ガスを流し、通過前後の湿度差から発汗量を計測する。医療機器としての承認を受けた装置がある |
| 定量的軸索反射性発汗試験 | 換気カプセル法を用いてアセチルコリン刺激後の軸索反射性発汗を評価する |
| シリコンゴム法 | 歯科用のシリコンゴムで皮膚表面の汗滴のレプリカを作る。汗滴と皮丘・皮溝を同時に観察できる |
| 発汗カメラ | 30〜100倍の拡大画像で発汗の拍出を捉え、発汗点数を記録する |
このなかで重症度判定の基準として明示されているのが換気カプセル法です。ガイドラインは、室温23〜26℃で測定前の運動や飲食を避け、安静座位でセンサー内蔵カプセルを装着したうえで、平均発汗量が1分・1平方センチメートルあたり2ミリグラム以上を重症としています。
この「2mg」は治療の効き方にも関わる
この数値は単なる分類ではありません。手掌へのボツリヌス注射の効き方を左右する境界としても登場します。
手掌多汗症についての国内の報告では、27例に対してBotox 60単位を片手に局注し6か月間の効果を比較検討したところ、発汗量が2mg前後の症例では6か月間有意に発汗量の低下が観察できた一方で、2mgを超えHDSS3以上の重症例では十分な治療効果が認められていません。
別の報告では、そうした重症例に投与量を90単位まで増やすことで7か月間効果が持続したとされ、重症度に合わせた投与量の検討が必要と考えられています。
つまり、数値で重症度を測っておくと、注射の投与量を決める材料になるということです。HDSSだけでは分からない情報がここにあります。
検索で見かける「レベル」の正体
ここからが本題です。ガイドラインに記載されているのは上記のHDSS(4段階)と発汗量測定ですが、実際に検索すると「レベル1〜3」という3段階の表現が数多く出てきます。
編集部が医療機関のサイトを確認したところ、「レベル」は次の2系統で使われていました。
系統A|見た目と触った感触による3段階
複数の医療機関が、汗の見た目や触った感触にもとづく3段階の分類を示していました。内容はおおむね共通しています。
| レベル | 状態 |
|---|---|
| 1(軽度) | 触ると皮膚がしっとり湿っている。皮膚が濡れてツヤツヤして見える。水滴はできない |
| 2(中度) | 皮膚の上で汗が水滴を作っているが、滴り落ちるほどではない |
| 3(重度) | 水滴となった汗が皮膚から滴り落ちる |
この3段階を掲載していたのは、うえだ皮膚科内科(名古屋市)、おだクリニック、いけざわ神戸元町クリニック、神成美容外科などです。汗が「湿っている/水滴になる/滴り落ちる」という物理的な状態で分けているのが特徴で、患者本人が鏡を見なくても判断しやすい指標といえます。
系統B|HDSSの4段階を「レベル」と呼ぶ
一方、HDSSそのものを「レベル」と表現しているサイトもあります。アイシークリニックは「手掌多汗症の重症度はHDSSというスケールを用いて1〜4のレベルで評価される」とし、レベル1〜2が軽症〜中等症、レベル3〜4が重症と説明しています。あせ皮膚科(汗の治療を専門とする医療機関)も「レベル3・4」という表現でHDSSを指しています。
両方を区別して併記している例もある
倉敷成人病センターは、この2つを明確に分けて記載していました。手のひらの発汗量は時間帯や気温、緊張の程度によって変動するが目安としてレベル1〜3に分類されるとしたうえで、重症度の判定にはHDSS分類を用い、スコア3・4が重症と定義されると併記しています。
この書き方が、実態をもっとも正確に反映していると考えられます。3段階は発汗の程度の目安、4段階のHDSSは重症度の判定という役割の違いです。
だから「レベル2」だけでは通じない
整理すると、次のようになります。
| 3段階の「レベル」 | 4段階の「レベル」(HDSS) | |
|---|---|---|
| 測るもの | 汗の見た目・触った感触 | 日常生活への支障 |
| レベル2の意味 | 水滴ができるが滴り落ちない | 我慢できるが時々支障がある |
| 最大値 | 3 | 4 |
| ガイドラインの記載 | 重症度判定としての記載はない | 記載あり(3・4が重症) |
| 保険適用の判定 | 使われない | 使われる |
つまり、調べたページで自分が「レベル2」だったからといって、別のページの「レベル2」や、診察室で言われるHDSSグレード2と同じとは限りません。3段階の「レベル3」は最重度ですが、4段階の「レベル3」の上にはまだ4があります。
受診の際は、「レベルいくつですか」ではなく「HDSSではどのグレードですか」と聞くほうが、話が噛み合います。あるいは「汗は滴り落ちますか」「日常生活のどの場面で困っていますか」という具体的な質問に答えるほうが、医師も判断しやすくなります。
3段階の分類にも意味はある
ガイドラインに記載がないからといって、3段階の分類が無意味なわけではありません。自分で判断しやすいという実用上の利点があります。
HDSSは「日常生活に時々支障がある」「頻繁に支障がある」といった主観的な表現なので、自己判定にはぶれが出ます。一方、3段階の「水滴ができるか」「滴り落ちるか」は見れば分かる。受診すべきかどうかを自分で判断する目安としては、こちらのほうが使いやすい面があります。
実際、掌蹠多汗症の臨床症状についてガイドラインも「重症例ではしたたり落ちる程の多汗がみられる」と記述しており、滴り落ちるかどうかが重症度の目安になることは示唆されています。
自分でできるチェック
重症度を測る前に、そもそも多汗症の診断基準を満たすかを確認しておきます。ガイドラインは、局所的に過剰な発汗が明らかな原因のないまま6か月以上認められ、かつ次の6項目のうち2項目以上に当てはまる場合を多汗症と診断するとしています。
| 項目 | 確認 |
|---|---|
| 最初に症状が出るのが25歳以下であること | 手掌は平均13.8歳、足底15.9歳、腋窩19.5歳、頭部21.2歳で発症 |
| 対称性に発汗がみられること | 片側だけなら別の原因を疑う |
| 睡眠中は発汗が止まっていること | 手足の汗は睡眠で消失するのが原則 |
| 1週間に1回以上多汗のエピソードがあること | 頻度の基準 |
| 家族歴がみられること | 遺伝的関与が示唆されている |
| それらによって日常生活に支障をきたすこと | 定義の中核 |
この6項目が原発性かどうかの判定で、そのうえでHDSSによる重症度の判定に進みます。診断と重症度は別の物差しだということです(→ 多汗症とは|原因・種類・受診の目安)。
2013年の国内調査では、原発性局所多汗症と回答した人のうち46.8%がHDSS3または4という重症を訴えていました。半数近くが重症に該当する計算です。にもかかわらず医療機関への受診率は6.2%にとどまっていました。
受診時に伝えるとよいこと
| 伝えること | なぜ役立つか |
|---|---|
| 汗が水滴になるか、滴り落ちるか | 発汗の程度が具体的に伝わる |
| どの場面で、どう困っているか | HDSSの判定材料。保険適用の可否にも関わる |
| 症状が出始めた年齢 | 診断基準の項目 |
| 左右対称かどうか | 診断基準の項目 |
| 睡眠中に止まるかどうか | 診断基準の項目 |
| 家族に同じ症状の人がいるか | 診断基準の項目 |
| 季節や時間帯による変動 | 掌蹠の発汗は日内変動・季節変動がある |
2つめの項目がとくに重要です。書類が濡れて字が書けない、キーボードが操作しにくい、握手を避けている、服の汗じみで着られる服が限られる、靴を脱ぐ場面が苦痛。こうした具体的な支障がそのままHDSSの判定材料になります。
ガイドラインは、治療のゴールは発汗が起こらないように常にコントロールすることではなく、多汗によって損なわれている生活のQOLが改善されることにあると明記しています。重症度の判定も、この考え方の上に立っています。
よくある質問
自己判定のレベルと診察の判定が違ったのですが
3段階の「レベル」とHDSSの4段階は別の物差しなので、一致しないことがあります。3段階は汗の見た目、HDSSは日常生活への支障を測っています。汗の量が中等度でも生活への支障が大きければHDSSは高くなりますし、その逆もあります。ガイドラインが重症度判定として示しているのはHDSSと発汗量測定です。
レベルが低ければ治療は受けられませんか
治療そのものは受けられます。ガイドラインは、局所多汗症の治療は患者本人が困らなければ行う必要はなく、患者自らの希望により治療は開始されるべきだとしています。裏を返せば、本人が困っているなら治療の対象です。
ただしボツリヌス注射の保険適用にはHDSS3または4という条件があります。重症度によって受けられる治療の範囲が変わる、というのが正確なところです。外用薬から始めるのであれば、重症度の高低にかかわらず選択肢になります。治療全体の順序と費用は多汗症の治療法と費用の比較で整理しています。
発汗量の測定はどこでもできますか
ヨード紙法やMinor法は安価で簡便なため、多汗症を診療している医療機関であれば実施できることが多いと考えられます。一方、換気カプセル法は医療機器としての承認を受けた装置が必要で、対応できる施設は限られます。ガイドラインも簡便な定性的測定のみでも日常診療では十分対応できるとしており、必ずしも数値測定が必須ではありません。
季節によってレベルが変わるのですが
掌蹠の発汗には季節変動があります。ガイドラインは、冬季の皮膚血流量が低下する時期に発汗量は減少し、夏季の皮膚血流量が増加する時期に増える傾向があると記しています。日内変動もあり、日中の覚醒時に発汗が多く、睡眠中は発汗が停止します。受診の際は、どの季節・どの時間帯の状態かをあわせて伝えると正確です。
測定前に気をつけることはありますか
換気カプセル法では、室温23〜26℃の環境で、測定前の運動や飲食を避け、安静座位で測定します。重量計測法も室温・湿度・季節・時間帯などの測定環境に大きく影響を受けるとされています。またMinor法で発汗部位を特定する場合は、1日前から制汗剤やデオドラント剤の使用を控え、剃毛しておくよう指示されます。
参考にした一次資料
- 日本皮膚科学会ガイドライン 原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版(2023年12月一部改訂)/PDF(日皮会誌 133巻13号 3025-3056、2023年)
- ボトックス 原発性腋窩多汗症 診断・治療(GSK医療関係者向け情報) ※HDSSと診断基準の記載
- 同ガイドラインの掲載ページ(J-STAGE) ※書誌情報と引用文献一覧
「レベル」表記の使われ方については、2026年8月時点で医療機関のウェブサイトを編集部が確認した結果にもとづいています。掲載内容は変更される場合があります。重症度の判定や治療の適否は個々の状態によって異なりますので、実際の判断は医療機関にご相談ください。

